『天切り松読本』 浅田次郎
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この「はじめての文学」シリーズは、これから本を読もうと思っている読者のために、著者が自ら選んだ短編集です。どの作品も一度は読んだことがあるものばかりでしたが、やはり浅田さんの文章に引き込まれるように読んでしまいました。
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別所彦四郎さんは文武両道であるところを見込まれて、実家よりも格の高い井上家に婿入りしたというのに、跡継ぎの息子が産まれた途端に邪魔者扱いを受け、離縁されてしまいました。そして実家に戻ったのですが、ここでも長男である兄や兄嫁に疎まれ、肩身の狭い思いをしています。
彦さんって真面目な人だから、周りに合わせるとか、適当にお茶を濁すなんてことができないんです。だから彼を慕って来る小文吾さんとか、蕎麦屋の親父とかには愛されているのだけど、うだつの上がらない毎日を過ごすことになってしまったのかもしれません。
そんな彼が間違えて拝んでしまったのが「三巡稲荷」。おかげで彼はとんでもない神様に出会ってしまいました。疫病神に、貧乏神に、死神。こんな怖い神様達だけど、何故か彦さんには優しいんです。彼の人生を知るにつけ、段々と味方になっちゃうところが可笑しかったなぁ!
神様達と関わっているうちに、彦さんは大事なことに気付いていきます。イヤな奴だと思っていた婿入り先の義父や実家の兄にだって、そういう人間になってしまった理由があるということ。彼らにいびられるようになったのは、自分の方にだって問題があったのだということに。
人間として大事なことは、思いやりだったり、信念だったりだということを、浅田さんはいろんな作品の中で書いています。どんなに成功しようが、どんなにお金持ちになろうが、そういうことに気付けない人は不幸なのだとね。
最後に、彦さんはある目標を見つけました。何故そんなことを選ぶのかと止める人もいたけれど、武士道に生きようと決めた彼にとっては、それこそが正解だったのだと思います。
三島由紀夫の「葉隠入門」のことを想い出しました。
そういえば、浅田さんは三島の大ファンだったんですよね。
765冊目
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赤い絆
冬休みに母親の実家である神社に親戚の子供が大勢集まりました。夜のお楽しみは、伯母さんが寝る前にしてくれるお話です。今夜の話は、伯母さんが子供のころの事。ある晩、この家に突然訪れた若い男女はどうも駆け落ちだったらしいのです。
虫篝(むしかがり)
津山さんは小さな会社の社長でした。真面目に頑張っていたのに資金繰りがうまくいかず、結局借金だらけになって夜逃げをし、今の土地へやってきたのです。ボイラーマンとして働き、とりあえず食べる心配はしなくてすむようになったのだが、一つだけ不安な事があったんです。それは、この町に自分とそっくりの男が住んでいるということなのです。
骨の来歴
高校の同級生の山荘を訪ねてみると、彼は以外に饒舌でした。バイトをしながら勉強した浪人時代、生活はキツかったが決して辛くはありませんでした。それは、彼女がそばにいたから。
昔の男
婦長の逸見さんは今夜お出かけです。「今日くらいケータイの電源を切って、ゆっくりデートしてきてくださいよ。もしも呼び出されるような事があったら、わたしが代わりに行きますから。」と送り出した浜中さん。その夜、偶然見かけた逸見さんのお相手は、ハンフリー・ボガードのような紳士でした。
客人(まろうど)
両親がなくなって始めてのお盆、銀座へ盆提灯を買いに行った永井さん。ひとりで迎え火を焚くのもさみしいなぁと思っていたのです。買い物の帰りに、ちょっと一杯飲みたいなぁと入った店のママにその話をすると、一緒に言ってあげてもいいわよと言うのです。
遠別離
赤坂檜町の歩兵第一聯隊で衛兵勤務をしている矢野二等兵。風邪を引いたせいか、妙に心細くなってきました。恋女房の頼子に、もう何年も会っていなくて、「会いたいよう~!」と叫んでみても、返事は返りません。
お狐様の話
伯母さんが小さかった頃、狐が憑いてしまった少女が神社に預けられました。神主さんの力で狐を退散させようとしたのですが、この狐がなかなか手ごわいのです。
浅田さんの描く世界は、ホラーであっても美しいですね。
遠別離は浅田さんお得意の軍隊物です。「兵隊の上下は星の数より飯(めんこ)の数で、つまりどのくらい軍隊の物相飯を食ったかによって決まる。」というのは、お得意のフレーズですね。(*^_^*)
2つの時間が交錯するところは、まるで「鉄道員(ぽっぽや)」のようです。家族に対する愛が生んだ、心温まる物語でした。
どの物語の亡霊も、愛するが故に存在するものでした。他人から見れば「うらめし」な存在であっても、親しい人から見れば「あなかなし」な存在であるんだなぁと思うのでした。
683冊目
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『湯屋に行かなくなったわれわれは、本来社会的視野で判定すべき自己評価を、マイフレームの絶対的視野のみ判断するほかはなくなった。』 『かくして、世に謙虚な人間がいなくなった。デブはデブである現実を信じようとせず、痩せ女はさらなるダイエットを試み、醜女も醜男も自分は十人並みだと錯誤し、老人は未だ壮年だと、少年はもう大人だと勘違いをする。』(本文より)
鏡で真実を確認できると誤解している人が多い。でも鏡自体が悪い訳じゃない。鏡を見る人が、ゆがんだ心で見てしまっているだけなんだから。
最近電車の中や、町の中で鏡を見て化粧直しをしている女性が多いけど、そんな人って、その危うさに気付いていないんだろうなぁ。本人は鏡の中の自分に納得してるんだろうけど、周りから見られている自分の像ってのを想像できないんだと思う。その自分の姿が電車の中や町の中でいかに「浮いているか」ってことが見えてないんだろうな。それに、化粧だけ頑張ってる人って多いよね。その日の服や靴、バッグとバランスが取れているかどうかチェックしたことあるんだろうかって人も多いよね。
「間違った自分像」を持ってしまい、他の人の意見には耳を貸さない人が増えてるように思うんだけど、どうかな?一番分からないのが自分だって思わない?
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