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『私とは何か 「個人」から「分人」へ』 平野啓一郎

私とは何か
「個人」から「分人」へ

平野啓一郎

 1人の人間の中にいくつもの人格(分人)がいます。仕事と家庭というような単純なものではなく、Aさんに対する人格、Bさんに対する人格・・・というように、相手によって違う自分が形成されているのです。

 仕事場では温和な人なのに、家庭では暴力をふるう夫であったり、部活が同じ友だちとは心を開いて話ができるのに、他のクラスメートとは話もできなかったり、そういう感覚を誰しも持っていると思います。

私たちの人格そのものが半分は他者のお陰なのである。

 自分が相手をどう思うかは、相手が自分をどう思っているかの影響を受けているのですから、自分が付きあう人の数だけ自分の人格が形成され、分人化はどんどん進みます。人によってはどれが本当の自分だかわからない状況になっていきます。でも心配はないのです。

「分人」はすべて、「本当の自分」である。

 相手によって対応する自分が変わっていくのは自然なことなのです。まるで別人のような人格が現れたとしても、そのすべてが本当の自分なのです。

 そこで考えてみるべきなのは、自分にとって好ましい人格と、嫌な人格があるということです。Xさんとなら話がはずむのに、Yさんとだと緊張感が生まれるということがあったり、仕事場では息苦しい感じがするけれど、家庭ではリラックスして暮らしているというような場合もあります。

 すべての人や環境が、自分にとって嫌なものであるということはほとんどありません。自分の人格を観察することで、あの人だけ、あの場所だけ、自分にとって嫌なものだということが分かるのです。

 自分はダメだと悲観することがあっても、それはすべての人や環境下での状況ではないのです。それが分かれば、自分に対するマイナスな気持ちがかなり救われるのではないでしょうか。更に突き詰めていけば、それは自分のせいではなく、相手の問題だということが分かるかもしれないし。

ロボットと人間の最大の違いは、ロボットは 今のところ 分人化できない点である。

 ロボットがより人間に近くなっていくとしたら、この部分が一番難しい点なのかもしれません。逆に言えば、分人化できない人間がいたとしたら、生きていくのがタイヘンでしょうね。

 昔、電話の仕事をしている時に感じたのですが、電話で話をしている自分と、もう1人別の人が頭の中にいて、頭の中の人が話をしている人に指示を出したのです。ここは相手の言うことを聞いておけ、だけど全部OKと言っちゃだめだよ。結論はこういう感じに持っていきたい。みたいな感じで指示が出ていたのです。

 そのせいか、わたしは電話の相手に押し切られるということがほとんどなくて助かったんだけど、一度に2人の分人が登場するのって不思議な感じですね。今でも話をしている時に、もう1人の分人が何かを考えているということがあります。

 これが2人だからいいけど、3人になったら収拾がつかなくなるかもしれません。

1860冊目(今年165冊目)

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