『男に生まれて』 荒俣宏
荒俣先生の最新作は、江戸から東京に変わる時代を生きる、日本橋の男達の話です。
鰹節の「にんべん」の社長さんに直接お会いしてネタを集めただけあって、鰹節の歴史や、御店のありかたなんかが実に活き活きと描かれています。
それ以外にも日本橋界隈の「榮太楼」やら、両替屋の「越後屋(三井)」、海苔の「山本山」、布団の「西川」など、老舗が実名で登場します。日本橋って、昔から立派なお店が並んでいたんだなぁって、改めて感心させられます。
こういう老舗だと、長男が跡を継ぐと思われがちだけど、実際には「入り婿」が多かったとか。ボンボン育ちの実子より、頭の切れる婿に御店を託していたっていうのは、今時の会社経営より、よっぽど頭を使ってたんだなって思います。
それに、新製品を作っていく意欲というのが素晴らしいなぁって思います。味付け海苔ってのは「山本山」が、緑の蚊帳は「西川」が江戸時代に作ったものだったんですね。どんな老舗だって、最初はベンチャーだったんだなって、これまた感慨無量なのです。
場所柄、ちゃきちゃきの江戸弁が飛び交います。今まで、荒俣さんってサイキックストーリーを書く人ってイメージがあったんだけど、こういう「世話物」の世界も好きだったんですね。山本一力もビックリって感じですよ。この系統の作品をまた書いて欲しいなぁって思います。
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