『夏の名残りの薔薇』 恩田陸
山奥のホテルで3人姉妹が待っている。そこに招かれるのは毎年ほぼ同じメンバー、豪華なホテルで優雅な食事や時間を過ごせるのに、招かれる人はみな緊張した面持ちでホテルへ到着する。家族やごく親しい人々しか呼ばれていないのに、なぜかピリピリした空気が充満している。
この小説の面白さは、同じ光景をを複数の人間の目から見ているということだと思う。同じ光景を見ても、人によって受け止め方が違う。見ている角度がそれぞれ違うから、ある人にしか見えていないこともある。そして頭の中で実際に起こっていることとは全く違うことをイメージしていることもある。
何人もの人が語ることによって複数のイメージが重なり合い、どれが本当なのか、どれがウソなのか、それともすべてがウソなのかが段々分からなくなってくるのです。3人姉妹が客たちの前でする話と同じように、つまらない真実よりも、面白いウソの方に人は惹かれていくってことを、この小説は教えてくれます。
たとえウソの話であっても、それを聞かされていくうちに、なんだかそれが正しいような気がしてきて、「そうか、そうだったんだ!」と信じられれば、それが本当の事になってしまうってことは、ある日突然自分が違う人になってしまうのかもしれないってこと。恐いような気もするけど、そうなってみたいという願望もある自分に気が付いてしまったのです。
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はじめまして。TB返させていただいたのですが・・・もしかして2回TBになっているかも・・・申し訳ありません。
恩田作品は読んでいて不安になる感覚がとても好きです。私は「ユージニア」を積読中です。評判が良いようなので読むのを楽しみにしています。
これからもよろしくお願いします。
投稿: EKKO | 2005年3月21日 (月) 21:38
EKKOさん☆コメント&TBありがとうございます。m(_ _)m
そうなんです。恩田さんの作品って、どれが本当でどれがウソだか分からなくなる、不安な心理って所が魅力なんですよね。
登場人物たちと一緒にオロオロ、ドキドキしたくってどんどん読み続けてしまいます。
どうぞ、よろしくお願いします。
投稿: Roko | 2005年3月21日 (月) 21:52
はじめまして。TBありがとうございました(*^^*)。
いろいろばたばたしておりまして、お返しが遅くなってしまってゴメンナサイ〜〜。
この小説、とても不思議な雰囲気でしたよね。わくわくしながら読みました。個人的にはラストはちと弱い気がするんですが・・・(苦笑)。
これを機会にどうぞよろしくお願いいたします♪
投稿: ちょろいも | 2005年3月23日 (水) 09:15
ちょろいもさん☆
コメント&TBありがとうございます。
ちょろいもさん☆コメント&TBありがとうございます。
「夏の名残の薔薇」って、ミステリーじゃないって考えれば面白い作品なのに、どうして「ミステリーだぞー」って売り方しちゃったんでしょうね?
これは出版社のミスだって思います。
「ブルー・タワー」は、なんだかロールプレイングゲームをやってるような感じがして、いつもの石田さんと違うなぁって思います。
「アキハバラ@Deep」の方が石田さんらしくって好きです。
などと言いながらも、次回作を期待してるわたしです。
投稿: Roko | 2005年3月23日 (水) 10:08
TBありがとうございました。
しばらく留守してたので、反応が遅くてごめんなさい。
「夏の名残りの薔薇」、私はとても好きな作品なんですけど
やっぱりこれをミステリとして売ってしまったというのが
ちょっと残念でしたよね。
この雰囲気が最高なのに…!
ミステリを期待して読んでしまうと、やっぱりちょっと。
まあ、それでもやっぱりとても好きな作品です♪
投稿: 四季 | 2005年3月24日 (木) 15:14
四季さん☆
コメント&TBありがとうございます。
「夏の名残の薔薇」の中に何度も出てくる「マリエンバート」ってフランス映画なんですよね。
フランス映画独特のミステリアスな感じがこの小説にも感じられるので、その辺を押して欲しかったなぁって思ってます。
投稿: Roko | 2005年3月24日 (木) 17:47