『真夜中の五分前 Side-A』 本多孝好
だから、みんな、ある部分では馬鹿になって、そういう言い方が悪ければ、自分の中にある部分を殺して、周囲とのバランスを取っている。それが私にはできない。自分の中の、ほんの一部でもおろそかにしてしまえば、そこからすべてが壊れていってしまいそうな気がするの(本文より抜粋)
主人公の上司である小金井さんは、とっても優秀な人なのに、その余りのシビアさに周りの人はついていけず、会社の中ですっかり孤立している。そんな人の部下になるなんてご愁傷様とまで言われたのに、主人公はこの上司となぜかうまくやっていけている。
小金井さんは自分を殺してまで周りに合わせるなんて、絶対にできないという。そんなことをするくらいなら会社を辞めた方がいいとまで思っている。そんな上司を心配しつつ、自分だって誰かに合わせて生きていくなんて嫌だと思っているということは、似たもの同士だってことなんだろう。
日本の社会って中庸が好まれるじゃないですか。上にも下にも飛び出ちゃいけない。大多数の人と仲良くしなきゃいけないってことを強要されますよね。それが苦手な人は社会生活できなくなってしまう世の中なんだよねって思います。
でも、そんなにしてまで周りに媚を売って、楽しい毎日が送れるのかなぁ?自分に嘘を付いて生きていたら、結局自分自身の首が絞まるってことになるんじゃないかな?
上司の小金井さんも、19歳で死んでしまった恋人の水穂さんも、「嫌なものは絶対に嫌」って言える人なんですよね。主人公はそういう人達に惹かれ、また自分自身もそういうタイプの人間だだって事に気が付いているんです。
みんなが「まぁまぁ」って考えていたら、世の中は動かなくなっちゃうんじゃないかな?誰かが本当のことを言わなかったら、嘘も不正も事故も、みーんな隠されてしまう。そういう世の中って怖いよねって思います。
「自分の好きなことをする」の第一歩は「自分が嫌なことはやらない」であるはずですよね。それをワガママと取られるか、マイペースと取られるか、なんて気にしているようじゃまだまだなんですかね?
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真夜中の五分前 Side‐A本多孝好〔著〕出版社 新潮社発売日 2004.10価格 ¥ 1,260(¥ 1,200)ISBN 4104716014僕は、学生時代に事故で失った恋人の習慣だった「五分遅れの目覚まし時計」を今も使っている。その五分ぶん、社会や他人とズレて生きているようだ。 [続きを読む]
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