『バカなおとなにならない脳』 養老孟司
切れるというのは、じつは前頭葉機能の低下なんです。(本文より抜粋)
脳の動きを簡単にいってしまえば、感覚(見る、聞く、触る、etc.)から情報が入ってきて、前頭葉で折り返して運動系に伝わります。たとえば、知っている人を視覚で認知して、手を振ったり、こんにちはって声を出したり、会いたくない人だったらそっぽを向くとかという動きをしますよね。
だから、自分の行動の直前にある前頭葉にブレーキが置いてあるんだそうです。「あいつ、嫌な奴だから殴っちゃおうかな」「いや、それは止めておこう」てな具合に前頭葉がブレーキを掛けます。ところが、この前頭葉のブレーキが甘くなったり、効かなくなったりすると「キレル」という状況になるんですって!
衝動的殺人を犯すような人の前頭葉機能は低下しているという、研究結果もあるのだそうです。ついでですが、連続殺人を起こすような犯人の場合は、前頭葉機能は普通なんですって。だからすぐには捕まらない。その替わり、扁桃体機能(善悪の判断、価値判断)のアクセルが効きすぎてる状態なんだそうです。
どっちにしても、脳の機能のアクセルが効きすぎたり、ブレーキが効かなかったりするととんでもないことをしでかすってことなんですね。
なんでそうなっちゃうのかってことはよく解っていないのだけど、養老センセイは便利になり過ぎた社会生活が悪いんじゃないかっておっしゃってます。農業とか、大工さんとか、体を動かして、自然と立ち向かっていく生活をしていれば、自然と我慢できる脳ができるというんです。
文明が発達して、便利な世の中になることを望んできたのに、それによって人間が本来持っている力が弱まってしまうってのは皮肉なものです。車や電車が発達したことによって足腰が弱くなったように、ボタン一つでご飯が炊ける便利な生活が、我慢する力を弱めてしまう。それにみんなが気が付かないでいると、どんどん人間は弱くなってしまう。
エアコンって快適だけど、夏の夜の夕涼みとか、もくもくした入道雲や、夕立の後のさわやかな風を楽しむことを忘れちゃいけないよね。スイカがおいしいなぁとか、汗を掻いた後のシャワーが気持ちいいなぁとか、自分の身体で感じることをもっともっと楽しめたら、「キレル」なんてことなくなっちゃうよね。
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