『容疑者Xの献身』 東野圭吾
隅田川テラスのホームレスの家並みは、ある意味壮観ともいえる。正月には松飾りを飾っているお宅まであるほど。その横を歩いて通勤する石神は、独身の数学教師。出来の悪い生徒達を相手にしながら暮らしている。
そんな彼がある事件に遭遇するところからこの物語が始まる。彼が勤める学校がある浜町、死体が見つかった篠崎、都営新宿線沿いでこの物語が進行するのだが、沿線に住んでいるわたしとしては、登場してくるシーンの全ての場所が目に浮かぶようで、そう、デジャブ状態のまま本を読み終えてしまった。
殺人事件をカモフラージュするために、様々なアリバイや遺留品が登場するのだが、物語の中の人たちと一緒にわたしもすっかり騙されてしまった。
わざとらしい証拠を並べて「怪しいぞ」と思わせることによって、真実を見えなくしてしまうなんて!「思い込みによる盲点をつく」という手口に、見事にやられた!
ただ、どうしても気に入らない点がある。それは最初のページに出てくるこの一文だ。
南に20メートルほど歩いたところで、太い道路に出た。新大橋通りだ。左に、つまり東へ進めば江戸川区へ向かい、西へ行けば日本橋に出る。日本橋の手前には隅田川があり、それを渡るのが新大橋だ。(本文より抜粋)
確かに、道路標識的にいえばこれで間違いはない。しかし地元に住んでいる人間だったら「東へ進めば江戸川区へ」とは、まず考えない。東へ進めば菊川、大島、あるいは少しずれてはいるけれど錦糸町方面だと考える。いっそ行徳(千葉)へ抜けると考える方が自然だ。
何故かって?この辺り、江東区の西の端の人達にとって、江戸川区というのは余り意識されない場所だって事。この表現から想像すると、東野氏はこの辺りには余り詳しくないんじゃないかな?
変なところにこだわっちゃいましたけど、この本はスッゴク面白かったです!警察に疑われる犯人、警察を振り切ろうとする容疑者、トリックを見抜こうとする友人、その絡み方が実に巧妙で見事でした。それにしても、どうしてこういうトリックを思いつくんだろう?
主人公の不器用な愛の表現にはビックリですね。純真な気持ちをこういう方法でしか表現できなかったことに、とても悲しくなってしまいます。
そして、こういう愛情を受け取ってしまった女性の方はどうなんでしょうね?けっこうドライに割り切っちゃうんじゃないかと思うのは、わたしも女だから?
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こんにちは。コメント&トラバありがとうございました。
そういえば、出だしから、ホームレスさんたちの描写があるんですよね。こんなに最初からずっと伏線がはってあったのに、全然気がつかなくて、すっかり騙されました。やられたーって感じです。本当に、お見事!
では♪
投稿: ゆうき | 2005年12月 8日 (木) 02:05
おはようございます。
作品の舞台の場所を知っているかどうか・・・。
地元の人にとっては違和感を感じる場合もありますよね。
ともあれ、この作品には見事にやられました。
まさかああいう結末だったとは!
面白かったです。
投稿: ゆこりん | 2005年12月 8日 (木) 09:16
ゆうきさん☆コメント&トラバありがとうございます。
あのあたりには、もの凄く大勢のホームレスの人たちが住んでいます。
きっと東野さんには、それがヒントになったのでしょうね。
投稿: Roko | 2005年12月 8日 (木) 12:42
ゆこりんさん☆コメント&トラバありがとうございます。
東野さんの作品はまだ2作目の初心者ですが、これはガツンとやられてしまいました。
これまでの作品を読まねば!
投稿: Roko | 2005年12月 8日 (木) 12:44
いやいや、厳しい地元批評。
東野氏は今作品の周囲の評価がなかなかと噂が入っておりますが、
やられた、だまされたというと
歌野晶午氏をすぐに思い出してしまいますもので.....。
投稿: takam16 | 2005年12月 8日 (木) 19:52
takam16さん☆コメントどーもです。
いやぁ、ついつい細かいところが気になっちゃって。(^^ゞスンマセン
こんなに面白い本を書いても、直木賞って遠いんでしょうか?
投稿: Roko | 2005年12月 8日 (木) 23:56
takam16の勝手な直木賞予想によれば、彼は2度文春の出版で選ばれたにもかかわらず、落としたことに文春サイドはもう彼を見捨てたと判断しております。<
横山秀夫氏のように自身の思うべき道に進むのが懸命ですし、賞はとらなくても彼なら食っていけます。
投稿: takam16 | 2005年12月 9日 (金) 10:33
takam16さん☆なるほど!
ということは、「黒笑小説」は益々現実味を帯びてくるわけですねぇ。
投稿: Roko | 2005年12月 9日 (金) 22:27
Rokoさん、こんにちは。
トラバありがとうございます。
Rokoさんのレビュー、現場近くに住んでいないとわからないことがしっかりと書いてあって、興味深く読みました。
ちょっとミニ知識。
>わざとらしい証拠を並べて「怪しいぞ」と思わせることによって、真実を見えなくしてしまう
これはミステリ用語で“ミスディレクション”といいます。
解決の伏線(ヒント)のように見せかけておいて、読者の注意を別の方向へ誘導し、推理を難しくすることです。
でもそのひとことで済ませるよりは、こんなふうに書いた方がわかりやすくていいですね。
もしかして、知っていたけれど誰でもわかるようにこう書いたとか。
だったらちょっとひんしゅく者ですね(汗)。
それで私がトリックをわかったかというと・・・わからないままでした。
ものすごい“献身”でしたね。
こちらへのトラバはいつでもいくつでも大歓迎です!
仕事やライトノベルを除いてまだ50枚くらい、
半分は誰もレビューを書かないような本なので
(あえて警告として載せているのもあります)、
探しやすいと思います。
また、Rokoさんが、むかし読んで記事にしていないものや、読んでなくてもちょっと興味があるものなど、お気軽にコメントいだだけるとさらにうれしいです。
で今回は「あ」から探して「いつかパラソルの下で」をトラバさせていただきます。
投稿: 藍色 | 2006年6月 1日 (木) 14:15
藍色さん☆ミスディレクションですね。
つまり迷子にさせるってことか!_〆(。。)メモメモ
主人公が、犯罪の当事者ではないからこそ仕掛けられるトリックでしたね。
>こちらへのトラバはいつでもいくつでも大歓迎です!
お言葉に甘えて、トラバをいっぱい送りますね。(^^)v
投稿: Roko | 2006年6月 1日 (木) 21:43