『「長生き」が地球を滅ぼす』 本川達雄
この本は、ベストセラー『ゾウの時間ネズミの時間』の著書、本川達雄さんが、数年前に出された『時間』を改訂したものです。
まだ『ゾウの時間ネズミの時間』を読んでいないのなら、是非そちらから読んでいただきたいと思うのですが、生物学的時間のあり方というのは、実に興味深いものなのです。
生物では、時間の早さはエネルギー消費量で変わってくる。エネルギーを使えば使うほど時間が早く進む」というのが本川さんの理論です。
ゾウもハツカネズミも一生の間に心臓は十五億回打ちます。心臓が十五億回打てばどちらも死を迎えることになるのです(ゾウの時間ネズミの時間より)
ゾウはハツカネズミよりも心拍がずっと遅いんです。だから長生きするのですが、これはあくまでも人間から見た場合なんです。
ネズミのように心拍が早い動物はすべてがスピーディーに進みます。動くのも早いし、成長するのも早い、だから死ぬまでの時間も早い。でも、その動物自身の感覚では、それが普通なのです。ゾウやカメのようにゆったりした動きは、実は止まっているように見えているのかもしれないんです。
わたしたち人間は、身体のサイズからいえば、ゾウより早く、ネズミよりゆっくりとしたリズムで生きているのですが、そのリズムが近年どんどん早くなってしまっています。人間としてのスピードを無視して、どんどん生活スピードを上げてしまったら、それは不幸の始まりです。
無理したツケはいろんなところに出てきます。知らなくていい情報まで知ってしまった為に余計な心配をしなければなったり。昔はガンになる人なんて、ほんの一握りでした。だから自分がガンになるんじゃないか?なんて心配することはなかったんですよね。
新幹線や飛行機は早くて便利です。でも、単なる移動手段になってしまって、旅の途中の景色を楽しむとか、ある地域から町のにおいが変わったことを感じるとか、人間的な感覚を発揮する機会を逃しているのかもしれません。
昔、ある営業マンがつぶやいた言葉を思い出します。「今までは新潟出張なら必ず泊まりだったから、おいしい酒や魚が楽しみだったのに、新幹線ができてからは日帰りになってしまい、楽しみがなくなっちゃったよ。」
スピード化は素晴らしい!という発想が、これまでの日本を発展させてきました。でもこれからは、人間らしい生活スピードを取り戻すことが大事だと、一人でも多くの人に気付いてもらいたいなぁと思うのです。
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