『あやしうらめしあなかなし』 浅田次郎
赤い絆
冬休みに母親の実家である神社に親戚の子供が大勢集まりました。夜のお楽しみは、伯母さんが寝る前にしてくれるお話です。今夜の話は、伯母さんが子供のころの事。ある晩、この家に突然訪れた若い男女はどうも駆け落ちだったらしいのです。
虫篝(むしかがり)
津山さんは小さな会社の社長でした。真面目に頑張っていたのに資金繰りがうまくいかず、結局借金だらけになって夜逃げをし、今の土地へやってきたのです。ボイラーマンとして働き、とりあえず食べる心配はしなくてすむようになったのだが、一つだけ不安な事があったんです。それは、この町に自分とそっくりの男が住んでいるということなのです。
骨の来歴
高校の同級生の山荘を訪ねてみると、彼は以外に饒舌でした。バイトをしながら勉強した浪人時代、生活はキツかったが決して辛くはありませんでした。それは、彼女がそばにいたから。
昔の男
婦長の逸見さんは今夜お出かけです。「今日くらいケータイの電源を切って、ゆっくりデートしてきてくださいよ。もしも呼び出されるような事があったら、わたしが代わりに行きますから。」と送り出した浜中さん。その夜、偶然見かけた逸見さんのお相手は、ハンフリー・ボガードのような紳士でした。
客人(まろうど)
両親がなくなって始めてのお盆、銀座へ盆提灯を買いに行った永井さん。ひとりで迎え火を焚くのもさみしいなぁと思っていたのです。買い物の帰りに、ちょっと一杯飲みたいなぁと入った店のママにその話をすると、一緒に言ってあげてもいいわよと言うのです。
遠別離
赤坂檜町の歩兵第一聯隊で衛兵勤務をしている矢野二等兵。風邪を引いたせいか、妙に心細くなってきました。恋女房の頼子に、もう何年も会っていなくて、「会いたいよう~!」と叫んでみても、返事は返りません。
お狐様の話
伯母さんが小さかった頃、狐が憑いてしまった少女が神社に預けられました。神主さんの力で狐を退散させようとしたのですが、この狐がなかなか手ごわいのです。
浅田さんの描く世界は、ホラーであっても美しいですね。
遠別離は浅田さんお得意の軍隊物です。「兵隊の上下は星の数より飯(めんこ)の数で、つまりどのくらい軍隊の物相飯を食ったかによって決まる。」というのは、お得意のフレーズですね。(*^_^*)
2つの時間が交錯するところは、まるで「鉄道員(ぽっぽや)」のようです。家族に対する愛が生んだ、心温まる物語でした。
どの物語の亡霊も、愛するが故に存在するものでした。他人から見れば「うらめし」な存在であっても、親しい人から見れば「あなかなし」な存在であるんだなぁと思うのでした。
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