『ふたりの証拠』 アゴタ・クリストフ
「悪童日記」では何をするにもずっと一緒だった2人。いつでも「ぼくら」だったのに、この物語では、おばあちゃんの元に残ったリュカ(Lucas)と、国境を越えたクラウス(Claus)はずっと離れ離れです。
この物語に登場する人たちは、みんな苦しんでいます。幼い子供を抱えて路頭に迷うヤスミーヌ。生まれつき身体が不自由で、学校でいじめ続けられるマティアス。夫を無実の罪で殺され、その悲しみをどうすることもできないクララ。何十年ぶりに姉との同居を果たしたのに、一緒にいると息苦しさを感じるヴィクトール。
もちろんリュカも悲しみを抱えています。クラウスに会えないこと。愛とは何か分からないこと。マティアスを守ってやりたいのに、彼がそれを望まないこと。
悪童日記では、どんなことにも負けない2人の強さが目立っていたけれど、この物語では人間の弱さが目立ちます。自分の弱さに打ち勝とうとする者、自分の弱さに押しつぶされる者、他人には分からないコンプレックスに翻弄されてしまう人生を歩む人たちばかり。
幸せを感じるのって、誰かが傍にいてくれるからなんです。家族であったり、友達であったり、心を許せる人がそこにいてくれるからこそ幸せなんです。普段はそれが普通だと思っているけれど、それが無くなった時、どうにもならない自分に気がつきます。そして、生きる目標すら失ってしまうのです。
2人でいたときのリュカはあんなに力強かったのに、1人になってからは、いなくなってしまったクラウスの影を追うような、寂しさが目立ちました。心の支えが無くなってしまうと、人間というのはかくも弱いものなのでしょうか?
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