『東京江戸歩き』 山本一力、金澤篤宏
昭和37年に高知から上京した一力さんは、新聞専売所に住み込みを始めました。その頃は、東京オリンピック開幕へ向けて競技場や首都高速の建設が進んでいたのです。まだ戦後を引きずっていた東京が、大都市へと変貌する第一歩を歩み始めた頃でした。(この頃の話は、ワシントンハイツの旋風 に書かれていました)
東京に憧れていた一力さんは、暇を見つけては東京の町を歩き回ります。憧れの石原裕次郎に会えるのではないかと銀座へ行ってみたり、力道山が闘った千駄ヶ谷の体育館を見に行ったり。
一番ステキだなぁと思ったのは、広沢虎造の十八番、森の石松の話に登場する「江戸っ子だってねぇ!」「神田の生まれよ」に憧れて神田へ行ったという話です。神田の本屋に飛び込んで、「鮨食いねぇの店は何処ですか」と聞いた一力さん。安くて美味しい鮨屋をその店の店主に教えてもらったというエピソードに、何だか嬉しくなってしまいました。
一力さんの文章ももちろんですが、写真がステキなのです。銀座のガード下、アメ横の混雑、柳橋の屋形船、新木場の貯木場。今ハヤリの東京じゃなくて、昔から変わらない東京の風景です。キレイでもないし、上品でもない、都会の疲れみたいなものが染み込んだ、薄汚れた裏道の風景が何ともいえずステキなのです。
誰も住んでいない町は、本当の町ではないのです。そこに住みついている人がいて、通り過ぎていく人を見守ってくれるからこそ、町は存在しているのです。長い時間をかけて守り続けている何かがあるからこそ、そこは町なのです。
みんなが憧れる都会としての東京は、何だかギラギラしていて嫌いだけど、人間の匂いがする東京は大好きです。だって、わたしの故郷なんだもの!
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