『波止場日記』 エリック・ホッファー
自由に適さない人々 - 自由であっても大したことのできぬ人々 - は権力を渇望するということが重要な点である。自由への欲求は「持てる」型の自我の属性である。その言 - 放っといてくれ、そうすれば私は成長し、学び、能力を発揮できるだろう。権力への欲求は、基本的には「持たざる」型の自我の属性である。もしもヒトラーが才能と真の芸術家の気質を持っていたなら、もしもスターリンが一流の理想化になる能力を持っていたなら、もしもナポレオンが偉大な詩人あるいは哲学者の資質を持っていたなら、彼らは絶対的な権力にすべてを焼き尽くすような欲望を抱かなかっただろう。
自由は、人間のそして個人の独自性を発揮する機会を与える。絶対的な権力も独自性を授けることができる。絶対的な権力を持つことは、周囲の人々すべてをあやつり人形、ロボット、玩具、あるいは外見だけ人間の動物にする力を持つことである。絶対的な権力は、他人を非人間化することにおいて独自性を達成する。
要約すると - 自由という大気の中にあって多くを達成する能力の欠けている人々は権力を渇望する。(本文より)
この本は、エリック・ホッファーが沖仲仕として働きながら、創作活動も行っていた1958年6月から1959年5月にかけての1年間の日記をまとめたものです。日記は必ずしも毎日書かれていたわけではありません。たった1行しか書かれていない日もあれば、かなり長い文章を書いている日もあります。
沖仲仕の組合に属し、事務所へ行って仕事を斡旋してもらうのですが、仕事がない日もあります。同じ仕事は数日しか続きません。色々な船に乗り込み、様々なものを運びます。仕事の内容も色々だけど、一緒に仕事をする相棒も色々。一緒にいるだけで楽しい人、二度と口を利きたくないと思う人、怠け者、働き者、若い人、年老いた人、日記にはそういった人たちのことが、しばしば書かれていました。
ここで出会う人たちは、移民であったり、有色人種であったり、字が読めなかったりという問題は抱えているけれど、それと人格とは全く無関係であることをホッファーは何度も繰り返しています。学歴や教養よりも、人間としての優しさや、明るさ、真面目さ、楽しさの方が大事なのだと彼は知っていたのですね。
沖仲仕の仕事は、決して安定はしていないけれど、ホッファー氏にとっては理想的な職場だったようです。何故って、会社組織に自分を拘束されていないから。わずかな衣服と家賃、食事の為のお金さえあれば、彼には充分だったのです。余計なものを欲しいと思わないから、余計なお金を稼ぐ必要はないのです。
当時50代半ばの彼は、身体の調子と相談しながら週に4日ほど働き、後の時間は本を読む事と、考えること、文章を書くことに専念していたのです。誰にも邪魔されずに本を読め、考える事ができれば、それ以上のものは必要なかったのです。
働くことを楽しみ、思考することを楽しみ、時間があっても文章を書けないとボヤキ、愛する人との時間を何より大事にしているホッファー氏の生活から、「働くことしか知らない人生なんてツマラナイよ!」というメッセージを感じるのです。
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