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『ぼくには数字が風景に見える』 ダニエル・タメット

ぼくには数字が風景に見える

ダニエル・タメット 

講談社文庫

サヴァン症候群は、自閉症者の10人に1人、脳損傷患者あるいは知的障害者の2000人に1人の割合で見られるという。また、サヴァン症候群のうち半数は自閉症者で、残りの半数にも他の発達障害があるともいう。つまり、サヴァン症候群とは、非凡な才能と脳の発達障害を合わせ持つ人々のことをいうのである。~ 中略 ~ サヴァン症候群の人たちが得意とすることの多い音楽、美術、数学などは、右脳の働きがものをいう領域である。一方、かれらの多くは左脳に障害を持つ。この障害を補うべく脳が発達した結果、右脳の眠れる力が目を覚ますのだという仮説が今のところ有力らしい。(解説より)

 アスペルガー症候群は、自閉症のごく近縁にある障害です。人の心の動きがよく分からないので、対人関係が上手に取れない。1つのことに強くこだわり、新しいことがらや環境をなかなか受け入れられない。という特徴があります。

 この両方の症状を持つダニエルは、他人とのコミュニケーションが不得意です。子供の頃は、家族以外の人達とどう接すればいいのか分からずにいて、いじめにあったり、誰からも相手にされなかったりしていたのです。

 1人で本を読むのが好きだった彼は、数字に対してとても興味を持つようになり、数学の事を考えると心が安まることを知ったダニエルは、自分に自信を持つようになっていきます。そして少しずつ、人と付き合う方法も理解してきたのです。

 どちらの症状にしても、一般の人たちにはまだまだ認識されていないものですから、なかなか周りの人に理解してもらえないことが多いのですね。他人だけでなく、本人や家族も理解していない部分がかなりあるんじゃないかな?と思うのです。

 

 わたしの知人の中にも、ダニエルと同じような症状を持つ人がいます。数字や語学に関してビックリするような能力を持っているのに、通常のコミュニケーションを取れないために、誤解を受けやすい生活を強いられているというのは確かですね。

 この本を読んでいて、自分の中のダニエルと同じような部分をいくつも発見しました。大勢の中にいても、その中で誰とも打ち解けられない自分がいたり。無意識のうちに鼻歌を歌っていたり。突然、数を数えたくなったり。書店や図書館で本が並んでいる順番が気になって、順番を並べ替えていたり。

 

 ダニエルは自分の持つ症状を理解し、少しずつ折り合いを付けてきました。周りの人達も、それを障害ではなく個性だと捉えることができるようになってきました。でも、ダニエルのことを本当に理解してくれたのは、彼と同じサヴァン症候群であるキム・ピークだったのす。

 キム・ピークは映画「レインマン」のモデルとなった人です。何と彼には脳梁(左脳と右脳とを分けている部分)がないのです。生まれてすぐに脳に障害があることが分かり、学習することはムリであろうと医者に診断されたのだそうです。ところが彼は恐るべき記憶力持つようになったのです。何と彼の頭の中には、9000冊以上の本が記憶されており、その情報を自由に持ち出せるのだそうです。

 

 ダニエルの数字に対する素晴らしい記憶力の秘密とも言えるのが「共感覚」です。たとえば、彼にとって数字の9は青と結びついているのです。この共感覚は、普通の人の中にも存在しています。先が見えないときに「お先真っ暗」と感じたり、気分が良いときに、「気分が上昇する」と感じることってありませんか?

 この「共感覚」に興味を持ったのがラマチャンドラン博士です。あの、「脳のなかの幽霊」の先生じゃありませんか!聴覚と視覚が連動する共感覚は、初期の人類が言葉を作り出す上での大きな一歩になったという説を、博士は述べています。

 

 この本を読んで感じたのは、それぞれの人の脳の動きによって、人間の個性が作られているということです。同じ環境にあっても、それを気にせずに普通の気持でいられる人、気になって何も出来なくなる人、そこにいることが耐えられずに逃げ出す人。様々な反応が発生します。

 ほとんどの人が何も感じないところで過敏な反応を示す人に対して、「変な人」と感じる心が差別やいじめを生むんですよね。そういう人もいるのだと理解することこそが、人間として大事なことなのですよね。

 是非とも大勢の人に読んでもらいたい素晴らしい本でした!

750冊目

 

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コメント

Rokoさん、こんばんは。
アスペルガー症候群、まだまだ理解されていないんですよね。
この本でもダニエルがアスペルガーだと診断されたのが25歳の時と書いてあって驚きました。
周りから見たらちょっと理解しにくい行動に出るダニエルくんをあたたかい目で見守ってきたご両親、すごいことだと思いました。

ななさん☆こんばんは
自分の症状を少しずつ理解し、克服していくダニエルくんも、それを温かく見守るご両親やパートナーの方も、みんな素晴らしいですねぇ!
いろんな人が世の中にはいるのだと、お互いに理解し合うことこそが人間らしい生き方なのだと思います。

こんばんは♪こういう本を読むと「普通」である、ということが何かわからなくなって、愉快です。
理解しあうこと、わかりあおうとすること。そ
の根本に、やっぱり美しさに対する敬虔な気持ちや、優しさがあることが、当たり前だけど、大切なことですよね!

ERIさん☆おはようございます
そうですね、「普通」ってよく分かりませんね。(#^.^#)
お互いを理解し合うには、優しい心が必要だなぁと改めて考えてしまいますね。

単純に数字に色が付くだけの能力者ではなくて、
ダニエル君の能力は複雑でとても興味深く読めました。
普通も障害も程度の差だとするスペクトラム(連続体)の考えは素晴しいですよね。
エリック・ホッファー自伝も古本屋に注文しましたですぞ。
他にもノンフィクションのお勧めあったらご教示下さいませ。

goldiusさん☆こんばんは
「普通」って言葉に振り回されてしまっていることが最近多いような気がします。
この世に同じ人は一人としていないのにねぇ。
わたしもノンフィクションたくさん読みたいなぁ!

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» ぼくには数字が風景に見える ダニエル・タメット 古屋美登里訳 講談社 [おいしい本箱Diary]
著者は、サヴァン症候群で、数学と語学の天才である、一人の青年。 数字に対して「共感覚」を持っている。つまり、数字に色や形や感情を感じて しまうのだ。彼には、数字が美しいイメージや風景に見える。 だから、普通の人間なら、覚えられない数字の羅列でも、簡単に暗記 できてしまう。彼は、円周率の暗唱でのヨーロッパ記録を樹立している。 その桁数、なんと小数点以下、22514桁。語学にも素晴らしい才能があり、 新しい言語(ヨーロッパ言語、つまりラテン系)なら、ほぼ一週間ほどで 普通に会話...... [続きを読む]

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