『銀しゃり』 山本一力
主人公の新吉さんは押し寿司の職人です。修行をしていたお店では飯炊きをさせたら一番と、若い頃からご主人からの信頼を得ていました。暖簾分けを許された彼は、深川に「三ツ木鮨」という店を構えたのです。
やっぱり一力さんの描く世界はいいですねぇ。貧しくても仲良く暮らしている長屋の人達。毎日が修行だと技を磨く職人達。気っぷのいい魚河岸の人達。江戸の町に住む人達の心の交流がたまらなくいいんです。
そして、この話の中で重要な役目を果たしているのが小西秋之助さんです。彼は御武家様なのですが、権威を傘に威張るような方ではないのです。それどころか、自分たち武士の不甲斐なさを嘆いているのです。
「わしら武家は、世のためになる物は、なにひとつ拵えてはおらぬ。ただただ飯を食らい、金で物を購うのみだ」(本文より)
武家というと優雅なイメージがありますが、実際の台所事情は大変だったのですね。殆どの武家が、給金として受け取る米をカタに借金生活していたとは!小西家では秘伝の技術でお金を稼いで内緒(家計)を守っていましたが、何もせずにやせ我慢だけの武家はさぞかし苦しい生活をしていたのだと思います。
秋之助さんのこの言葉は実に深い言葉だなぁと思うのです。現代の日本に住むわたしたちだって同じじゃないですか。会社勤めをして稼いだ金で物を消費するだけで、何も作り出している訳じゃありません。「自分は世の中のために何か役に立っているのか?」という疑問を持つことはとても大事ですよね。
札差しの蔵が並んでいた場所が今の蔵前、当時の魚河岸は日本橋にあったんですね。日本橋三越本店の向かい側の一帯です。あそこに鰹節屋さんがあるのは、そのなごりだったんですね。新吉さんのお店は深川冬木。秋之助さんのお屋敷は大名屋敷が建ち並ぶ深川富川町。
そんな地図を今の地図と重ね合わせて想像すると、これもまた楽しいです!この本を参考に散歩したくなってきました。
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