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『日の名残り』 カズオ・イシグロ

日の名残り

カズオ・イシグロ

ハヤカワepi文庫

1989年ブッカー賞受賞

英国

 この本を読むうちに、「理想的な生活とは、日本人の妻、中国人の料理人、イギリス人の執事、そしてアメリカの家」というたとえを思い出してしまいました。執事こそがイギリスの象徴なんだなと。

 

 元々はイギリスの邸宅だったのだけれど、その主が亡くなり、やってきた新しい主はアメリカ人。邸宅と共に生きてきた執事は、イギリス流の主従関係を通そうとするけれど、アメリカ人の主はどうも違う関係を作ろうとしているようで、もう1つ噛み合っていないのです。

 

 執事としての仕事を何よりも優先するスティーブンスさんにとって、自分自身のことは二の次だったんですね。だから休みの日にどこかへ遊びに行こうとか、女性を口説こうとかなんてことは考えることすらなかったんだろうなぁ。

 

 そんな彼だけど、重い腰を上げて旅に出ようと決心したのは、やっぱり理由があったんですね。お屋敷のため、女中頭だったミス・ケントンに戻ってきてもらえたらいいなぁなんて、一応言い訳はしてますけど、実は彼女に会いたかったというのが本音だったのでしょうね。

 

 この物語は、殆どがスティーブンスさんの回想として語られているのですが、どのシーンを切り取ってみても、彼のプロ意識の高さと、もう1つ時代に乗り切れないイギリスの融通の利かなさのようなものを感じました。

 

 そこで一言、本当のことを言ってしまえばまた別の人生が開けたかもしれないのに、決して本音は口に出さないのです。それは彼が本当の執事だから。自分の意見などより、ご主人の意向が一番大切なのだと信じて、仕事に命を捧げていたのです。

 

 旅に出て、様々な出来事に遭遇し、執事としてではない彼の性格が少々表に出てきますが、やはり彼は控え目な執事としての生活が身に付いてしまっているのです。勤勉で、質素で、品格を重んじて生きていた、彼こそが大英帝国の縮図だったのかもしれません。

 

日の名残り 映画では、アンソニー・ホプキンスがスティーブンスさんを演じていたのだそうですが、わたしがこの小説を読んでイメージしたのは、もう少し背が高くて痩せた男性です。ミス・ケントンがエマ・トンプソンというのは、ピッタリな感じですね。そのうちに映画も見てみようと思います。

 

 897冊目(今年80冊目)☆☆☆☆☆

 

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 続・活字中毒日記
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