『茗荷谷の猫』 木内昇
9月24日の日本経済新聞夕刊の書評で気になったので読んでみました。
染井の桜(巣鴨染井)
これは江戸時代の終わり頃の物語です。本当にこんな人がいて、わたしたちが今見るような桜が生まれたんだろうなぁと思えてきます。
黒焼道話(品川)
黒焼に魅せられてしまった男の物語。上野広小路にある「黒焼」というお店のことを思い出してしまいました。
茗荷谷の猫(茗荷谷町)
これは大正時代の物語。文枝は趣味で絵を描いていました。その絵を画廊で扱った方がいいという男が現われたのです。
仲之町の大入道(市ヶ谷仲之町)
均は1人で東京へやって来ました。田舎で想像していたよりも東京はもっと都会で、外国へ来てしまったような気持になってしまったのです。
隠れる(本郷菊坂)
耕吉の父が亡くなり、一生食べていけるほどのお金が手に入ったのです。何もしないで生きていきたいと考えた彼は、口うるさい田舎を離れ、東京で暮らすことにしたのです。
庄助さん(浅草)
太平洋戦争が始まる数年前、すでに景気は悪くなりつつあったのだけれど、浅草六区のとある映画館では、少しでも面白い映画をかけようと努力していました。
ぽけっとの、深く(池袋)
戦争が終わり、空襲の焼跡にはバラックが建ち並び、闇市ができていったのです。みんな生きることに必死でした。
てのひら(池之端)
母が上京する。その連絡をもらっただけで佳代子は嬉しかった。母と会うのは2年ぶり。子供のころから、母は佳代子の自慢の種だったのです。
スペインタイルの家(千駄ヶ谷)
俊雄は毎朝出勤途中に見るある家のことがとても気になっていて、あんな家にいつか住んでみたいとまで思っていました。
どの物語に登場する人も、不思議なこだわりを持っていました。桜に命をかけた人も、映画監督になるのが夢だった人も、他のことなどには目もくれず、自分の理想に近づこうと必死でした。
そんな中で異彩を放っていたのが「隠れる」の耕吉さんです。意味のあることはしないようにしよう。誰とも仲良くしないでいこうと努力し続けているのに、周りが放っておいてくれないんです。わざと無愛想にしていても、それを感じてもらえないのってホントに辛そうでした。(^_^;)
人生とはままならぬことの連続です。みんなと仲良くしていきたいと思う人には友達ができず、放っておいてくれと思っている人には、うるさく付きまとう人がいたりするのです。努力したからそれが報われるとは限らないし、ぼうっとしていても上手くいってしまうこともあります。
信じていた人に裏切られ、あてにしていなかった人に助けられ、気にして欲しい人には無視され、どうでもいい人に好かれてしまい、ああ、どうすればいいのでしょう!
9つの物語は関係なさそうな顔をして、でも、そうっとつながっています。この世に生きている限り、みんなどこかでつながっているのかな?
その時代に生きていたわけでもないのに、なんだか懐かしさを感じてしまうのが不思議です。
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