『私の男』 桜庭一樹
腐野(くさりの)淳悟は、わたしの養父だ。彼がわたしを引き取って育て始めたのは15年も前のことで、いまではもうはるか遠い、時の彼方の記憶だ。~ 中略 ~ わたしは小学四年生で、震災でとつぜん家族をなくした。淳悟は遠縁に過ぎなかったけれど、いくつかの複雑な手続きを経て養子縁組し、養父になってくれた。(本文より)
淳悟と花は親子になり、かつては北の方で暮らしていたのだけれど、今は東京で2人だけで肩を寄せ合って生きているのです。
2人には秘密があります。でも、それは2人だけの問題であって、他人に迷惑をかけているわけじゃないのに、どうして放っておいてくれないのでしょう?どうして余計なお世話をしたがる人が現れるのでしょう?このままで2人は幸せなのに。
秘密を他人に知られないために2人は罪を犯しました。でも、それは仕方のないことだったのだと思います。
「それを悪いことだと思うのはあなた方の理屈なのであって、わたしたちにとっては普通のことなんだから。人のプライバシーに首をつっこんだあなたが悪いんです。」って気持ちだったんだろうなぁと、わたしは思うのです。
愛するってことは、身も心も虜にしてしまいます。そこに土足で立ち入るものは、どんなものであっても許せないのです。そこには理屈はありません。倫理観もありません。どんなことをしても、自分たちの世界を守ろうとするのは当然のことだと、わたしは思うのです。
この小説の展開は実に面白いですね。最初に提示された出来事があって、時間をさかのぼるとその理由が分かってくる。もう1つさかのぼると、もっとよく分かってくる。孤独な2人がどのようにして生まれてきたのか、そして、どのように巡り合ったのかが、すぅっと分かってくるのです。
この小説は、誰にでも奨められるとは思わないけれど、わたしは大好きです。
あのカメラのフィルムには、どんなものが写っていたのでしょうか?
P.S. 拓銀の破綻って、東京にいるわたしにはピンとこなかったんですけど、「ああ、そういうことだったんだ」って今頃納得してしまいました。
941冊目(今年124冊目)))☆☆☆☆☆☆(絶対オススメ!)
トラックバック先
粋な提案
ひなたでゆるり
"やぎっちょ"のベストブックde幸せ読書!!
活字の砂漠で溺れたい
東京図書館制覇!Blog版
ディックの本棚
« 『「3日坊主」でも使いこなせる手帳術 計画ナシ!で夢が実現するシンプルな方法』 岡崎太郎 | トップページ | Post-it の画期的な使い方 »
「日本の作家 さ行」カテゴリの記事
- 『補欠廃止論』 セルジオ越後 24-242-3268(2024.08.24)
- 『6+1の不思議』 斉藤洋 24-240-3266(2024.08.22)
- 『キュリオと月の女王』 斉藤洋 24-234-3260(2024.08.17)
- 『変な人が書いた驚くほどツイてる話』 斎藤一人 24-205(2024.07.19)
「文学賞」カテゴリの記事
- 『ラブカは静かに弓を持つ』 安壇美緒 24-169(2024.06.13)
- 『赤と青とエスキース』 青山美智子 24-163(2024.06.07)
- 『ザリガニの鳴くところ』 ディーリア・オーエンズ 24-121(2024.04.26)
- 『不便なコンビニ』 キム・ホヨン 24-102(2024.04.07)
- 『八月の御所グラウンド』 万城目学 24-105(2024.04.10)
コメント
« 『「3日坊主」でも使いこなせる手帳術 計画ナシ!で夢が実現するシンプルな方法』 岡崎太郎 | トップページ | Post-it の画期的な使い方 »
おお
Rokoさんのレビューで、面白そうなので図書館に予約を入れましたん
しかし先約が70人・・・・・
手元に届くのはいつになることやら。
投稿: winos | 2008年10月25日 (土) 20:12
Winosさん☆こんばんは
わたしのレビューが気に入って予約してくれたなんて、うれし~!!
わたしが予約した時は100人以上いたけど、今でもそんなにいるとは恐るべし。(*_*;
Winosさんになら、きっと気に入ってもらえると思うなぁ。
読んだら絶対に感想聞かせてね!
投稿: Roko | 2008年10月25日 (土) 20:54
Rokoさん こんばんは
恋は盲目ですね。そう唄ったのは確かジャニス・イアンだったでしょうか。それにしても胸塞がれる小説でした。
投稿: yori | 2008年10月25日 (土) 22:11
Rokoさん、こんばんは。
読み応え、ありましたね。
過去に溯る独特の構成に深みに嵌まるみたいに読みました。
家族を知らなかった二人には、この生き方しかできなかったのかも知れないと…。
http://1iki.blog19.fc2.com/blog-entry-347.html
投稿: 藍色 | 2008年10月26日 (日) 01:56
yoriさん☆Love is blind ♪ ですね
2人で肩寄せ合って生きていくしかなかった訳ですけど、愛は盲目であり、愛はいかなる障害も超えていくのですね。
投稿: Roko | 2008年10月26日 (日) 11:13
藍色さん☆こんにちは
淳悟が母親から与えてもらいたかった愛というものを考えると、切なくなります。
そして1人だけ生き残った花は、周りが思っているのとは全く逆の事を考えていたのが印象的でした。
投稿: Roko | 2008年10月26日 (日) 11:59
この本は、ずっとどうしようかな、と迷っていましたが、Roko さんがそういう評価なら、早めに読もうかなあ。
yoriさん もこちらの評価がきっかけでした。Roko さんの影響力って、大きいですね。
投稿: ディック | 2008年10月26日 (日) 18:34
ディックさん☆こんばんは
この本は誰にでも奨められるって感じじゃないけど、一度捕まったら、もう逃げられませんよ!(*^^)v
投稿: Roko | 2008年10月26日 (日) 19:02
こんばんわ。
迫力のある恋愛小説でしたね。
構成が凝っていて、喪失感を感じる展開も好きでした。
確かに万人向けとは言えないのかもしれませんが、一読の価値ありですよね。
投稿: ia. | 2008年10月26日 (日) 23:04
i.a.さん☆こんばんは
どうしてなんだ?という気持ちに回答が与えられ、そして又違う疑問が湧く展開が見事でしたね。
物語の迫力に圧倒されてしまいました。
投稿: Roko | 2008年10月27日 (月) 00:19
Roko さん、さきほど読み終えました。
あれこれ設定が耳に入ってきているので心配していましたが、そんなことはなかった。
客観的に考えれば、異常な物語なのに、小説はすっかり感情移入させて、登場人物になりきってしまえば、すなおに納得させられてしまいました。
客観的には「悲しい運命に翻弄される二人」なのだけれど、花は満たされていたのですね。
第一章に返って、「これから先が問題」のような気がしますが、でも花は淳悟を心の底から信じて疑わない。その絆の強さに打たれます。
投稿: ディック | 2009年5月20日 (水) 17:00
ディックさん☆こんばんは
これだけ感情移入できる物語ってなかなかないなぁって思います。
人が何と言おうと、自分が信じる道を突っ走ることこそが一番の幸せだとわたしは信じたいです。(*^^)v
投稿: Roko(ディックさんへ) | 2009年5月20日 (水) 23:57