『パパ・ユーアクレイジー』 ウィリアム サローヤン
西欧人というものは確立した自我を持っているから、その言語において主語を省略しないのか。それとも、逆に主語を省略せぬような言葉を持ってしまったことが彼らをコギトの世界へ追いやるのかは、私にはよく分からぬが、いずれにせよ、西欧人における自我の確立と省略せぬ人称代名詞とが、どこかで深く結び付いていることだけは確かであろう。(訳者あとがき より)
この本を読もうと思ったきっかけは、訳者が伊丹十三だということでした。以前からチェックしていたのに、今まで読まずにいたわたしはマヌケだったなぁと思います。つまり、この本はとても面白かったんです。
この物語の中で、ほとんどが父と子の会話です。父は自分の考えを押し付けるわけでもなく、かといって子供の言うなりになるわけでもなく、でも自分がどんなことを考えているのかをストレートに表現してきます。
子の方は、それまで余り一緒に暮らしていなかった(父と母は別居中)父と一緒にいる時間をとても楽しんでいるし、イヤなことはイヤだと主張もします。
英語では "My father and me" であっても、日本語だと通常は「父とわたし」と表現します。よっぽどのことがなければ「わたしの父とわたし」とは表現しませんよね。でも伊丹さんは、あえて原文通りの表現を使ってみたのです。
それが、この物語をより一層うまく表現しているような気がします。「僕の父と僕は海へ出かけた」というような表現は、確かにまどろっこしいかもしれないけれど、そこには「ヨソの誰でもない僕のお父さんという人」という気持ちが込められているような気がするんです。
この2人は親子というよりも、歳の離れた兄弟みたいなんですよね。人生についても、遊びについても、真剣に話し合える、そして互いに学び合うところが素敵でした。
この物語の中で、お父さんがアーティーチョークをもぎ取るシーンがあるんですけど、そこで伊丹さんの「女たちよ!」の「アーティーチョークの食べ方」を思い出してニヤニヤしてしまいました。
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