『あるキング』 伊坂幸太郎
野球選手になるべく運命づけられたある天才の物語。
山田王求(おうく)はプロ野球仙醍キングスの熱烈ファンの両親のもとで、生まれた時から野球選手になるべく育てられ、とてつもない才能と力が備わった凄い選手になった。
王求くんは野球の英才教育を受けます。毎日素振りをし、バッティングセンターへ通い、TVで見るのは野球だけ。普通の子供のようにTVでマンガを見たり、遊びに行ったり、塾に行ったりはしないんです。
王求くんは小学生のころからもの凄い野球選手になってしまって、凄過ぎてだれも付いてこられない所が悲しかったなぁ。でも、彼は達観していて「そんなものだよ」という気持でいたみたいだけど。
彼が敬遠ばかりされるという文章を読んでいたら、現ヤンキースの松井が高校生の時、甲子園では敬遠ばっかりだった光景を思い出してしまいました。この選手とは勝負したくないという戦略は分かるけど、アマチュアがそんなことしていいのか?スポーツマンシップより勝負ですか?って思ったなぁ、あの時。
それにしても、弱小チーム「仙醍キングス」、常勝「東卿ジャイアンツ」ってネーミングには笑っちゃいましたね。仙醍という架空の都市を舞台にしてしまう所に、伊坂さんの仙台ラブな気持ちがにじみ出ているようでいいですねぇ。
この天才が、日本の野球界を背負って立つはずだったのに、そうはいかないところが、案外現実的な話なのかもしれないと思いました。「そんなことしてると嫌われるよ」と言われても気に留めず、いつも大変な方を選んでしまっていた王求くんの人生を、彼自身はどう受け止めていたのでしょうね?
他の人間にとっては「そこまでしなくても」だったけど、彼自身にとっては「当たり前のことですよ」って感じだったのかなぁ?
あの黒い服の女3人は、魔笛の魔女のようでしたね。運命の神は王求の見方だったのか、敵だったのか、どちらにせよ彼は力一杯努力する天才であったのは確かです。
いつもの伊坂作品とは全く違ってダークな感じだったけど、やっぱり面白かったです!でも、好き嫌いがはっきりする作品なんだろうなぁとも思いました。
1076冊目(今年111冊目)☆☆☆☆☆
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≪内容≫
おまえは王になるためにこの世に生まれてきた
天才が同空間に存在するとき、周囲の人間は畏れ敬うのか、それとも――
王になるべく運命づけられた男の物語...... [続きを読む]
» あるキング 伊坂幸太郎 徳間書店 [おいしい本箱Diary]
ここまで面白くなさそうな人生を送っている男の話を
初めて読んだ(笑)もう、読んでいて、気の毒になるくらい
しんどい人生・・・でも、彼は天才なのだ。
マクベスが題材になっているのだから、これは悲劇なんだろうけれど
段々、それがホラーのようになっていくところが、面白い。... [続きを読む]
» 『あるキング』 伊坂幸太郎 徳間書店 [アン・バランス・ダイアリー]
う〜ん、何だか感想が書きにくい本だなぁ・・。
伊坂さんの物語は、もともと「手放しで軽く楽しめる」というタイプの本は少なくて、滑らかには進まず、あちこちにひっかかったり、つまづいたりしながら、いつのまにか、まんまと作者の意図に乗せられてしまう、というよ....... [続きを読む]
物語としても、伝記としても、ちょっと不思議な一冊でした。
その理由はラストで腑に落ちましたけれど。
能力があるが故にいつも孤独で、当たり前のようにほかの選択肢がない人生、見ていると辛くなるほどだけれど、王求くんにとっては、迷わず進むべき道だったのでしょうね。
投稿: ふらっと | 2009年10月 2日 (金) 18:57
ふらっとさん☆こんばんは
両親の期待に潰されずに堂々と生きた王求くんは立派でしたね~!
天才とは孤独に耐える力があるものという意味なのかもしれません。
投稿: Roko(ふらっとさんへ) | 2009年10月 2日 (金) 20:54
野球といえば、ヒーローとか天才とかの
輝かしい物語だろうという思いを
裏切られた意外な印象の作品でした。
王求という一人の男の人生を、
しみじみと考えさせられました。
投稿: エビノート | 2009年10月25日 (日) 22:48
エビノートさん☆こんばんは
これは現代版「「巨人の星」とも思えたのですが、王求くんは飛雄馬よりも完璧な選手になり過ぎて、誰も付いていけなくなってしまった所が悲劇だったのでしょうが、本人にとってはそれが普通のことだったのでしょうね。
何が幸せなのかは、本人が決めるしかないのだと思いました。
投稿: Roko(エビノートさんへ) | 2009年10月25日 (日) 23:07
こんばんは。松井選手の敬遠のシーン、覚えてます。
うちは阪神ファンの家ですが(笑)彼がバッターボックスに立った時のオーラはいつも凄くて、「ま、彼に打たれるなら仕方ない」といつも思ってました。
王求も、大リーグに行くとか、別の可能性を歩けたら、よかったんでしょうねえ・・。
読んでいて切ない小説でした。
投稿: ERI | 2009年10月27日 (火) 00:44
ERIさん☆おはようございます
日本のプロ野球に属してしまうと即には大リーグには行けないし、仙醍キングスにあれだけ執着があるとね(^^ゞ
でも、こういう人生を歩んでしまう人もいるかも?と思えてしまえました。
投稿: Roko(ERIさんへ) | 2009年10月27日 (火) 09:35
こんばんは。
ダークだけど面白かったですね。
不思議な運命を授けられた王求の潔さが切なかったですね。
投稿: ia. | 2009年11月30日 (月) 01:07
ia.さん☆こんばんは
王求はきっと、この運命を受けるしかないと悟っていたのでしょうね。
ギリシャ悲劇みたいだったなぁって思いました。
投稿: Roko(ia.さんへ) | 2009年11月30日 (月) 21:32
あけましておめでとうございます♪
TBありがとうございました。
私も松井選手の敬遠の試合、思い出しました。
当時かなり賛否両論を呼びましたよね~
伊坂さんの作品はいつもそうなのですが、
ありえない話のようでいて、実はリアリティがあるのかも?なんて思いながら読みました。
切ない読後感が良かったです。
投稿: EKKO | 2010年1月 2日 (土) 18:44
EKKOさん☆あけましておめでとうございます。
子どもの才能を信じて親が熱狂的にがんばるという話は、実はかなりあるんですよね。
わたしの友人にも、子供の才能を信じて家族ごと東京に出てきたという人がいるんですよ。
だから、王求くんの物語は絵空事とは思えませんでした。
投稿: Roko(EKKOさんへ) | 2010年1月 2日 (土) 19:14
こんばんわ。TBさせていただきました。
私も敬遠されているところは、松井選手を思い出しました。
敬遠した高校は、そのレッテルをずっと貼られ続けていたらしくて、それも可哀相だなと思いましたが。
王求は、幸せだったのかなと読み終えたときまず思いました。
もしかしたら、リアルな話なのかもしれないですね。
家族の期待にこたえなければと頑張っている子供がたくさんいそうですし・・・
投稿: 苗坊 | 2010年1月15日 (金) 00:19
苗坊さん☆こんばんは
親や周りの期待に潰される子もいるだろうし、こういう話って、けっこう色々あるんでしょうね。
投稿: Roko(苗坊さんへ) | 2010年1月15日 (金) 00:55