『IN』 桐野夏生
真実は、真実ではないからです。真実と思えたものを書いた時点で、それはフィクションになります。それを知っている作家は、真実と思えるものを魅力的に、そして面白くします。そのためには、真実に間違われるフィクションが必要なのです。ですから、作品はすべてフィクションなのです。(本文より)
タマキは、小説家「緑川未来男」が自分の家庭をモデルに描いた『無垢人』という 小説の取材をしていました。自身も小説家であるタマキは、この小説で描かれていた「○子」という女と緑川の関係を知るにつれ、自分自身の状況に似たものを感じてしまうのでした。
男と女の関係というのは、いつも理不尽なルールで成り立っているような気がします。ちゃんとした相手を見つけ、誠実に、正直に暮らせるカップルというのは、全体からいったらどのくらいの割合なのでしょう?
女が男を選ぶ時、相手をどのくらい好きなのかという尺度と、安定した生活ができるかどうかという尺度があります。
「やっぱりお金がないとね」といって、付き合っていた人を捨てて見合結婚をしたり。2人同時に付き合っていて、よりお金を持っている方を選んだり。計算高い女って結構います。
逆に「どうしようもない男なんだけど」、「悪い男なんだけど」、別れることができない、どう考えたって先がないのに、ズルズルと付き合ってる女というのもいます。
タマキは後者のタイプで、相手のだらしなさに魅力を感じているようなところがあります。だからこそ、「無垢人」を書いた緑川にも興味を持ったのかもしれません。
読み始めは、桐野さんの作品としては毒が少ない感じかなぁって思っていたのですが、読めば読むほどダークになってきて、特に緑川の妻である千代子との会話には、ゾクゾクっとしてしまいました。キツイ女というのは、歳をとっても決して丸くはならないというところに妙なリアリティを感じました。
桐野さんの作品では、やっぱり女がみんな怖いですね。それに比べると男はみな少年のままのようです。
優しい人が好きって言う人が多いけど、そういう人ってどれくらいいるんでしょう?わたしも含めて、色んな事を忘れない人は、決して優しくはありません。ずっとずっと胸の中に恨みや怒りを持ち続けて生きているのですから。
適当に忘れてくれる人こそが、本当に優しい人なのではありませんか?
1150冊目(今年28冊目)☆☆☆☆☆
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» 桐野夏生 『IN(イン)』 [気まぐれ Walker]
桐野夏生 『IN(イン)』 (集英社) 1,575円
[作品紹介]
担当編集者であり、恋人でもあった青司と激烈な別れの後、
小説家・鈴木タマキは恋愛における抹殺をテーマに「淫」と
いう小説を書こうとしていた。 主人公は緑川未来男が書い
た『無垢人』という小説の中に登場する緑川の愛人「○子」。
その存在を知った妻は 激しく嫉妬し、夫婦喧嘩 のあげく 幼
い末息子が事故死した。『無垢人』はその 修羅の日々を 赤 ..... [続きを読む]
こんばんは!
これぞ桐野夏生といったような作品でした。
男はみんな子供のようで、女は底なし…
なかなか、分かりあえないですねぇ~(^^ゞ
投稿: やっくん | 2014年3月21日 (金) 00:55
やっくん☆コメントありがとうございます。
桐野さんの作品に登場する女性はみんな怖いですが、現実の女性も怖いです(笑)
それを小説の中で見せてくれる桐野さんは、実に正直な人なのかもしれません。
投稿: Roko(やっくんへ) | 2014年3月21日 (金) 09:48