『告白』 湊かなえ
我が子を亡くした中学校の女性教師の告白から、この物語は始まります。事故死ということになっているけれど、実はこのクラスの生徒に殺されたのだと、そしてそれが誰であるのかを自分は知っているというのです。
被害者側の視点、加害者側の視点、彼らの家族の視点、クラスメートの視点、同じものを見ているはずなのに、それぞれが全く違うものとして捉えられている所が、この小説の主題であるように思います。
理想的な人生を作ろうとしているけれど、現実は違っていて、でもそれを認めたくない気持というのは誰しも持っているものです。それとどう折り合いを付けていくのか?は人それぞれです。
現実と理想の差を認めつつ、細かい事はごまかしていこうとする人。差があること自体を否定する人。自分の都合がよいように事実を曲げる人。見たくないものからは目をそらしていたいというのは人間の本能なのかもしれません。
この本を読みながら、わたし自身の子供時代の事を色々と思い出しました。
わたしは子供のころ、親や先生がわたしに対して抱いているであろう期待というものを壊してはいけないなぁと思っていました。だから、出来る限り求められている理想的な子供像を演じていたのです。今思えば、厭な子供ですよ。こういう風にしていれば「いい子」だって評価されるなって計算していたんですから。
この物語に登場する中学生たちも、多かれ少なかれ、そういう計算をしてましたね。「なんだ、みんなそうなんだ」なんて思っちゃいました。従順なふりをしているけど、腹の底では全然違うことを考えていましたね。
それぞれが自分を正当化しようとしてますから、どの登場人物も、どこまで本当のことを言ってるのかは定かではありません。それに、嘘をついているという意識もないかもしれないしね。
人間なんて、みんな勝手で、みんな嘘つきで、みんな小心者なんです。そうじゃないフリをしているか、気が付いていないかだけなんですよ。
それにしても、みんな孤独ですね。自分の胸の内を打ち明けられる相手が、どこにもいない人ばかり。だから、甘い言葉に騙されてしまう。だから、不幸になってしまう。孤独は人を破壊してしまいます。
それは決して他人事ではなくて、すべての人にとって自分の事なのに。
この本は 書評サイト 「本が好き!」 より提供して頂きました。どうもありがとうございました。
1166冊目(今年44冊目)☆☆☆☆☆
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こんにちは!
事の重大さを誰も認識していないという恐さ。
他人事という無関心さ。
でも決して小説の中だけじゃないんですよね。
現実にはもっと悲惨なことも。
映画ではこの恐さをどう表現するのか、ちょっと楽しみでもあります。
投稿: じゅずじ | 2010年4月29日 (木) 18:11
じゅずじさん☆こんばんは
想像力の欠如ってのは実に怖いです。
自由と放し飼いは違うんだってことを分かってない人が多いですもんね。
映画は松たか子さん主演ですよね、どんな仕上がりなのかなぁ?
投稿: Roko(じゅずじさんへ) | 2010年4月29日 (木) 21:25
Rokoさん、こんばんわ。
計算したり、嘘をついたり、ごまかしたり・・。
誰でもつい、そういうことしてしまうと思います。
だからこそ、それが連鎖した時に見えたこの風景に、心が冷えました。
松たか子さん主演の映画、どんな仕上がりなんでしょうね。興味あります。
投稿: june | 2010年4月30日 (金) 22:09
juneさん☆こんばんは
誰だって嘘もつくし、腹黒いところはあるものですが、ここまで来ると「勘弁してよ!」って感じですね。
ちょっとした行き過ぎが重なると、こんなことになっちゃうのかという所が怖いんですよね。
投稿: Roko(juneさんへ) | 2010年4月30日 (金) 22:38
中学・高校時代を思い出すと、どちらかと言えばあまりよい思い出のないぼくですが、そうはいっても、ここまでこねくり回して悪く描くのか、という感じが拭えませんでした。
ただ、強引に引っ張ってページをめくらせる筆力には脱帽です。
投稿: ディック | 2010年5月 5日 (水) 22:20
ディックさん☆こんばんは
著者が女性だからここまで書けたんじゃないかと思うんです。
女同士の会話ってかなり黒いですからね~。
投稿: Roko(ディックさんへ) | 2010年5月 5日 (水) 22:46
人間の心の奥底にある心理は怖いですよね。
自分の中にも潜んでいるかもしれない、
どこかで覚えのある感情……そう思うと、
なんだか余計に恐ろしい。
いろんな意味でコワイ本でした。
投稿: ましろ | 2010年5月19日 (水) 08:52
ましろさん☆こんばんは
表面上はいい人でも心の奥底はと考えると、怖~いですよね。
それにしても、ここまで書いてしまう湊さんってスゴイ人だと思いますよ!
投稿: Roko(ましろさんへ) | 2010年5月19日 (水) 22:13
こんばんわ。TBさせていただきました。
噂どおりの衝撃作ですね。
いろいろ考えながら読みましたけど、みんなが孤独って言うのは確かに!と思いました。
投稿: 苗坊 | 2010年6月 5日 (土) 21:27
苗坊さん☆こんばんは
孤独はこんなにも人を追いつめてしまうって所が怖いなぁって思います。
表面だけの家族や友達関係って、そんなに多いんでしょうかねぇ?
投稿: Roko(苗坊さんへ) | 2010年6月 5日 (土) 22:16
こんにちは
TBの返礼&コメントありがとうございました。
この作品、デフォルメはあるものの、現代の縮図を見ているようで、日本の将来が心配になってきました(笑)。
ところで、よろしければ、相互リンクどうでしょうか?当方、Links欄に登録させてもらっています。
投稿: 風竜胆 | 2010年6月 6日 (日) 12:15
風竜胆さん☆TBとコメントありがとうございます。
こちらからもリンクさせていただきました(#^.^#)
この小説に描かれているような状態を断ち切るには、互いを尊重しあう心、謙虚な心が大事だなって思います。
特に親子の信頼関係って重要ですよね!
投稿: Roko(風竜胆さんへ) | 2010年6月 6日 (日) 18:58