『監察医の涙』 上野 正彦
監察医とは、死因の明らかでない死体について、検案、または検案によっても死因の判明しない場合には解剖を行うことでその死因を明らかにする(wikipedhiaより) というお仕事です。
この中には、家庭で自然死したと届出があっても、死因を明らかにすることによって事件性がないかどうかの判断をするという部分も含まれています。
死体は嘘をつかない(本文より)
生きている人間は嘘をつきます。自分に都合の悪いことは隠そうとします。面倒なことはやりたくないと思います。自分のせいでこうなったと認めたくないことは、すべて他人のせいにします。そのツケを弱い人、特に子供に持っていく卑怯な人が余りにも多いのです。
監察医が、家庭で亡くなった子供の遺体を調べてみると、暴力を振るわれていたり、食事を満足に与えられていなかったということが判明することが、最近とみに増えているのは余りに悲しい現実です。
監察医は、生きている時に言えなかった「助けて」という言葉を、遺体から見つけ出すお仕事です。この仕事を長年続けてこられた上野さんの、誠実な思いが込められた本です。
上野さんのお父様は戦前の無医村のお医者様で、お金がないから医者へ行けないという人を見つけては、無料で治療を続けていた方なのだそうです。その思いが、上野さんを監察医の道へ進ませたのかもしれません。
世の中に不条理というのはこんなにあるものなのか! こんなにも強い愛があるのか!と思うエピソードがたくさん詰め込まれた本です。
ぜひ、読んでみてください。
その時には、ハンカチを忘れずに。
1584冊目(今年27冊目)☆☆☆☆☆☆
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