『しつこさの精神病理』 春日 武彦
(角川oneテーマ21)
角川書店(角川グループパブリッシング)
理屈っぽさと自己愛という2つの要素含有量が高い怒りは、孤独という条件を加えることによって、時間が経過してもちっとも恨みが拡散したり、薄まったり、自然消滅などしない傾向を示す。ひたすら執拗で、しかもそれが生きる目的とか生きていくエネルギーに転嫁してしまう事すらある。(本文より)
人が何かにこだわることは、スポーツや音楽や文学といった観点から見ればとても大事なことです。こだわるからこそ練習や研究に励むことができるのだし、それによって何かを極めることが出来るわけです。
でも、誰かの役に立つわけでもないし、芸術的でもないし、ハッキリ言って本人にしか分からないようなことにこだわっている人を見ると「しつこい」と感じ、それがエスカレートしていくと病的だと周りの人は感じるようになります。
たとえば「オタク」な人たちは、間違いなく「しつこい性格」なわけですが、彼らは自分がオタだということを自覚しています。自覚できているということは、世間と自分が乖離しているということも分かっているわけです。この範囲内であれば特に問題はないのです。それが、その人の個性なのだし、それが生き甲斐なのですから。自分が「〇〇マニア」とか「○○バカ」だと自覚できているならば、最低限の世間との折り合いは付けられるのです。
問題なのは、自分が「異常にしつこい人」だと自覚していない人です。
自分の考えは世間の常識だと信じ込んでいたり、あるいは、自分の考えに同調しない人は愚かな人だと思っていたり。自分の考え方に問題があるなどとは全く考えていない人の言動は本当に迷惑です。
「お局さん」と呼ばれる人はこの典型ですね。「わたしの考えこそがルールである!」と信じているお局さんには、新人さんだけでなく、時には上司にまで言うことを聞かせてしまいます。そこから逃れるには会社を辞めるしかない、でも会社を辞めたら生活が成り立たない、どうしよう?ということで精神を病んでしまう人まで生んでしまいます。
「モンスター・ペアレンツ」も「ブラック企業」も基本的な問題は、この理由なき「しつこさ」です。彼らがどれだけ危険なことをしているのかを、彼ら自身は全く考えていないのです。
こういう人たちを観察している分には面白いのですが、あまり近づきすぎて絡まれたら怖いなぁ(汗)
1621冊目(今年64冊目)☆☆☆☆☆
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