『全盲の僕が弁護士になった理由』 大胡田 誠
この本の著者である大胡田さんは、学生時代に視力の問題で自分の進路が狭まってしまうのはイヤだと考えたのです。しかし、大学の法学部を受験する時点から試練が始まりました。
点字で受験すること自体を断った大学もありました。その理由は「前例がないから」だったのです。
大学へ入学できてからも、問題が幾つも発生しました。大学のすぐそばの学生会館へ住もうと申し込みをしたところ、「前例がない」と断わられました。
しかし、大胡田さんは諦めません。大学へ通うために住む場所を探し、1人で大学へ通いました。
次の問題は授業です。内容が本で渡されているものは点字にしたり、音声にしたりして予習をしていきます。授業中にノートを取るときは点字です。点字を書くのは、わたしたちが文字を書くよりもずっと手間がかかります。
ある時、彼が点字でノートを取っていると、その音がうるさいので迷惑している生徒がいるから、教室の端へ行ってくれと先生に言われたのです。大胡田さんは、そう言われてもしょうがないなと思ったのだそうですが、それを聞いていた大勢の同級生から、君が席を移動する必要はないと助けられたのだそうです。
この話を読んでいて、不思議な気持ちになりました。うるさいと感じた生徒は、遠くの席へ自分が移動すればいいだけのことなのに、どうしてそうしなかったのでしょう?そして、うるさいと自分で言わなかったのは何故なのでしょう?
この本の中で大胡田さんは、「相手の身になって考える」ということを何度もおっしゃっています。自分がその立場だったらどうするのか?どうして欲しいのか?その想像力がないから差別が起きるのだと。
「前例がない」という断り方だって同じことです。自分がその立場だったら「前例がない」で納得しますか?わたしだったら納得できません。何か問題が起きることが怖いから、そうやって断るのって、実に日本的で嫌なことです。
せめて、「自分たちは対応できないから、ごめんなさい。」と真実を言って欲しいと思うのです。
今までに前例がなかったことをしていくためには、いろんな壁を乗り越えなければならないから、「そんなこと無理です」と自ら限界を作ってしまうのは、実に悲しいことです。一見高い壁のように思えても、乗り越えてみたいという意思があればなんとかなることは沢山あると思うのです。
わたし自身も、自分には無理だからと諦めたことが若い頃は沢山ありました。それが何故でしょうか、歳を取ってからの方が「それ、なんとかなるよなぁ」と考えられるようになってきたのです。
やりたいことを100%達成するのは無理でも、1%でもできたら上出来じゃないですか!それに、もしできなかったとしても「試してみた」という体験は残ります。後から「あの時にやっておけば良かった」なんて後悔もしなくて済みます。
あきらめないこと
それこそが人生の見えない壁を打ち破る秘訣なのだと大胡田さんに教えていただきました。
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