『現代という時代の気質』 エリック・ホッファー
この本が出版されたのは50年ほど前。今とは違って強いアメリカだった時代の中にいて、ホッファーは未来が見えていたかのような文章を書いている。
港湾労働者として働いていた彼の職場にも機械化が進み、アフリカ系の人たちの人権問題が表面化し、民主主義世界を守るのだというアメリカのスタンスは他国から嫌われ、様々なことが変わりつつあるのに、それに無頓着な人が世の中の大多数だったのです。
そんな社会を動かしているのは「知識人」たち。彼らのことを、ホッファーはこう分析しているのです。
現実にわれわれが見いだすのは、支配的知識人のヒエラルキーは創造的個人を妨害し、窒息させる傾向にある。ということである。このパラドクスの原因は、知識人が権力につくとき、采配をふるうのは彼らの中でも才能の乏しい者がつねであるということにある。(中略)もしヒトラーが偉大な画家か建築家の才能を持っていたら、レーニンやスターリンが偉大な理論家の素質をそなえていたら、彼らは権力に対する満たされぬ飢えを育てなかったかもしれない。ところが、文学的あるいは芸術的偉大さを渇望しながら才能を欠いている人の陥りやすい傾向のひとつは、他人の創造性に干渉することである。(本文より)
まるで現代の日本のことを指しているようなこの文章に、思わずため息をついてしまいました。
何か新しいことをしようとすると、どこからかかかってくる圧力の根源はこういうところなのでしょうね。自分たちに理解できないことはやらせないという理屈が、世の中を窮屈にしてしまっているのです。
でも、落ち込んでいる場合ではありません。こんな状況から脱出するには何が必要なのでしょうか?他人が何と言おうが、自分で考え、自分で行動すること、そこからしか新しいものは生まれないと信じるしかないのだと気付かせてくれた、この本に感謝です。
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