『音楽嗜好症』 オリバー・サックス
頭の中で何かの音楽が鳴り続けて困ったという体験を持つ人はどれだけいるのでしょう?ほとんどの人の場合、それは数時間かせいぜい数日の問題です。ところが、その症状が永久に続く人がいるというのです。頭の中でフルオーケストラの音楽が大音量で流れ、通常の会話や思考の邪魔をしてしまうという状況は、とても辛い症状です。
何らかの病気や事故をきっかけに音楽に関する障害が起きることがあります。それまで全く音楽に興味を持たなかった人なのに、異常に音楽を切望するようになったり。逆に音楽を生業としたり、音楽を愛する人間が、突然音程を正しく聞き取れなくなったりすることもあるのです。
聴覚で聞き取る音の世界と、頭の中にある音の世界が一致しているからこそ音楽を楽しむことができるのですが、この2つの部分に差異が発生するのは、音楽を愛するものとしてはとても困る事なのです。そういう症状に対しての治療技術が少しずつ上がっているというのは嬉しい事実です。
ウィリアムズ症候群や音楽サヴァン症候群と分類される症状のある患者さんの症例は、何だか不思議なものを感じます。歌うことや楽器を演奏することなど、音楽に関することなら何でもできるのに、簡単な計算ができなかったり、靴紐を結ぶこともできなかったりするというのです。
音楽の天才といわれるような人には、確かにそういう傾向のある人がいますね。すばらしい歌手なのに金遣いが荒くて借金まみれになった人。数字のことが分からなくてマネージャーや家族に好き勝手なことをされた人。音楽家の伝記を読むとそういう話が実に多く出てきます。
アルツハイマー症やパーキンソン病の治療に音楽が効果的であるという症例は、とても興味深いものでした。日本でもこういう治療法は実施されているのでしょうか。
さて、わたしがこの本を読んだ動機なんですけど、わたしはにはこの本に出てくる人たちのような極端な症状はありませんが、時々頭の中で音楽が流れ続ることがあるのです。通常でもラジオなどから音楽が流れていたら、人の話は聞き取りづらくなります。
脳は大きな音の中でも話し声を聞き取れるように自動調整するというのですが、わたしの脳の場合は、騒音はカットされますが、音楽はカットできないようなのです。メロディーはすぐに覚えられますが、歌詞はなかなか覚えられません。まぁ、これはわたしの個性ってことで済む程度なのですけどね。
1271冊目(今年45冊目)☆☆☆☆☆☆
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