『シニアの品格』 小屋 一雄
かつてはニューヨーク支店長であった59歳の主人公が本社へ戻り、年下の上司の下で働くこととなり、様々なフラストレーションを持ってしまいます。不満だらけで、いたたまれない毎日を暮らす中、「あのおじいさんと話をするといろんなことが解決するんだよ」といううわさを聞いて、88歳の老人と向かい合うところから物語が始まります。
上昇志向の塊である主人公は、どうして自分の気持ちが相手に伝わらないのか分かりません。それを分からない人たちのことを、ただのバカだと思い込んでいるようです。
そんな話を老人は黙って聞いてくれます。そして、老人はこう提案します。「相手の立場に立って考えてみたらどうなのだろう?」
最初はそんなこと無理ですよといっていた主人公ですが、「座る席を交代して考えてみると相手の気持ちになりやすいのですよ。」というアドバイスを受けて試してみたのです。そして、今まで考えてみたこともない相手の気持ちに触れることができたのです。
自分に自信があるようでいて、実は触れたくない部分があったり、弱弱しいように見えていても一本筋が通っていたり、人はそれぞれなのですね。それぞれに良いところがあって、それぞれに弱みがあって、それとどう折り合って生きていくのか?そこが難しいところです。
最後に老人が語っていたように、「品格が高い人とは、自分自身への関心(執着)が減っていき、周りの人たちとの良い関係を作れる人」という部分が深く印象に残りました。
毎日の生活の中で楽しいことやステキなことを見つけ出すことが、老後を楽しく生きるヒケツだという所も、いいなぁと思いました。人生の残りが少なくなるからこそ、すべての時間を大事に生きていかなければいけないんだなと気づかせてくれる言葉でした。
1272冊目(今年46冊目)☆☆☆☆☆☆
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