『遺言。』 養老孟司
私ほどの年配の女性に相談を受けた。あちこちの医療機関で診てもらったが、特別なことはない。でも頭が重いし、元気がないし、しびれ感があるし、耳鳴りがひどい。それを1時間にわたって訴え続ける。聞いていて、ビックリする。この人は感覚が欠如しているのだろうか。外の世界が一切話題にならないからである。目も耳も触覚も、じつは外界を把握するために存在している。でもこの人はそれを完全に無視して、感覚は自分の身体に関することだけに集中している。いうなれば、「意識の中に住む」という、現代人の典型であろう。(おわりにより)
外界に関心がない。つまり自分以外のものや人に関心がないのは実に恐ろしいことです。先生に相談してるようでいて、相手の話を聞く気がないのだから、アドバイスなど耳に入るはずもなく、じゃぁ何故そんな話をしているかというと、自分のグチ以外に話題がないということなのでしょうね。
長生きはいいことだと誰もが言いますが、こういう状態で長生きしたって楽しくないのです。たとえ自分の身体に不調があったとしても、花が咲いたね、鳥が鳴いたね、あの歌はいいねぇ、なんてことに気づければ、どんなにか人生は楽しくなるのです。
笑ったり、泣いたり、怒ったり、いろんな感情があってこそ人間です。苦しいことばかりに目を向けて、仏頂面して生きていくなんてやだなぁ。養老先生のように、いろんなことを考えて、いろんな所に楽しさを見出して生きてこそ長生きの意味があると思うのでした。
1377冊目(今年32冊目)☆☆☆☆☆
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