『女装と日本人』 三橋 順子
LGBTに関して、差別感のない人もいれば、嫌悪感を持つ人もいて、なかなかその本質は理解されないわけですが、「女装する男=性同一性障害」という認識を持っている人が、世の中のほとんどではないでしょうか。この本の著者である三橋さんは、自分は決して性同一性障害ではない。自分は男性から女性への性別越境者(トランスジェンダー)なのだと定義されています。
女性の姿をしている男性というということに対して違和感を持つ人は、それは一種の病気なんじゃないかと考えてみたり、頭がおかしいんじゃないかと考えてみたり、結局は自分の中の常識からはみ出た人のことを許容できないから、自分には理解できない変なものという結論付けをしているようなのです。
タイには日本より多くのトランスジェンダーの女性(カトゥーイ)がいます。でも、社会的にはかなり認められているそうです。そういえば、徴兵検査への呼び出しはあるけれど、女性の姿で検査を受けると、「兵隊は無理ね」と、あっさい不合格にしてくれるのだとういうニュースを見たことがあります。その根源にある考え方は、トランスジェンダーになる人は、「前世が女だったから仕方ない」という仏教の輪廻転生の考え方をしているのだそうです。
こういう合理的な考え方ができないから、日本ではまだまだおかしな目で見られてしまう事が多いのでしょうね。
とはいえ、日本にもいいところはあります。ゲイタウンとして有名な「新宿2丁目」のような場所は、世界的に珍しいのだそうです。「ショーパブ」や「オカマバー」が堂々と営業できるのはとても稀有なことだそうです。
そして、ついでに言えば、著者の方のような女装の方たちが働くお店は「歌舞伎町」から「新宿3丁目」界隈で、2丁目の皆さんとは明確な線引きがされているのだそうです。
この本の中にはいろいろな裏社会の話が出てきますが、こういうことを記録していく人というのはなかなかいないのでしょうね。きちんと1冊の本に纏めておきたかったのだという著者の意欲がとても感じられる本でした。
最後に、女装という話になると必ず登場する「エリザベス会館」の話が出てきたのが、嬉しかったです。最初は岩本町にあったお店が亀戸に移転したころ、近くに住んでいたわたしは、このお店から表へ出て歩くお姐さんたちを良く見かけたのです。いつの間にかお店がなくなっていて、あの人たちはどこへ行っちゃったのかなぁって思っていたので、今は浅草橋に移転したということをこの本で知って、ホッとしました。
わたしたちは、みんな違った姿、違った心で生まれてきます。そのままで不都合がない人が、不都合を持つ人を一方的に責める権利などないのです。それぞれが、それぞれにとって自然な形で生きていくことができるのが、本当に自由な世界なのです。
たとえ、それが自分には理解できないものであっても、頭から否定する理由はないのです。無理やり理解する必要はありません。無理やり関わる必要もありません。そういうのもあるんだなと思えばいいだけなのです。
女装する人、男装する人、そういう人がいる。それでいいじゃないですか。
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