『脳は回復する』 鈴木大介
奥さんの「脳が壊れた人は脳コワさんって呼べばいいじゃない」という言葉に、最初はあきれていたけれど、「高次な脳機能障害者」なんていうより、気楽でいい呼び名だなと思った著者の大介さんは、その後、自分を含め脳機能障害を持っている人のことを「脳コワ」さんと呼ぶようになりました。
著者のように脳梗塞によって障害を発生した人、命名した奥さんのように生まれながらの発達障害を持っている人、歳をとって脳の機能が低下した人など、「脳コワさん」は世の中に大勢いるのです。
大介さんは最初、こんなに何にもできなくなってしまった自分に絶望していました。こんな状態でどうやって生きていけばいいのだろうと悲観していたのです。ところが、その話を奥さんにすると笑ってこう言われたのです。「やっと、わたしの悩みを分かってくれるようになったんだね。」
彼女のように学習障害を持っていて、生きていくのが辛いと考えるのはどうしてなのかという具体的な理由を、大介さんは自分の脳が壊れて初めて分かったというのです。
どういう時にパニックが起きるのか、どんな言葉が自分を傷つけるのか、何が救いになるのか、奥さんとの二人三脚で少しずつ理解し、乗り越えていくのです。
この本の中で紹介されていた「感情が高まったときに、それをどうにも止められない」という事例にはビックリしました。そこまで凄くはないけど、わたしも似たような状態を体験したことがあるのです。あれは脳の機能不全なのだということが良く分かりました。こういうことって、知っているのと知らないのとでは大きな差があります。
老人の脳機能の低下による問題などについても、この本で紹介されている事例がとても参考になりました。医者だって分かっていないことがたくさんあるのに、それを教えてくれないということにも驚きました。結局は自分で何とかするしかないのが現状なのですね。
初めて体験する「羊水に包まれているような、外界から隔絶されている感じ」とか、「何かが気になって取りつかれてしまうような気持ち」「人が大勢いると怖くて歩けない」「1対1で話すなら良いけれど、大勢の中で話していると、話についていけなくなる」などの症状に、面白い表現で名前を付けてくれる奥様に助けられていく様は、これこそが正しい介護の姿なのだと思いました。
1383冊目(今年38冊目)☆☆☆☆☆☆
« 『この10年でいちばん重要な文房具はこれだ決定会議』 ブング・ジャム | トップページ | 『怒らない人は、うまくいく。』 中谷彰宏 »
「心・脳・身体」カテゴリの記事
- 『せいめいのはなし』 福岡伸一 25-179-3575(2025.07.01)
- 『あらゆることは今起こる』 柴崎友香 25-172-3568(2025.06.24)
- 『疲労とはなにか』 近藤一博 25-144-3540(2025.05.27)
- 『なぜ悪人が上に立つのか』 ブライアン・クラース 25-154-3550(2025.06.06)
- 『ブレインジム 発達が気になる人の12の体操』 神田誠一郎 25-152-3548(2025.06.04)
「日本の作家 さ行」カテゴリの記事
- 『小説 秒速5センチメートル』 新海誠 25-187-3583(2025.07.09)
- 『その扉をたたく音』 瀬尾まいこ 25-184-3580 (2025.07.06)
- 『小説 君の名は。』 新海誠 25-175-3571(2025.06.27)
- 『江戸の探偵』 鈴木英治 25-169-3565(2025.06.21)
「発達障害・学習障害」カテゴリの記事
- 『わたしは、あなたとわたしの区別がつかない』 藤田壮眞 25-94-3490(2025.04.07)
- 『発達障害・グレーゾーンのあの人の行動が変わる言い方・接し方事典』 野波ツナ 24-183(2024.06.27)
- 『刑務所しか居場所がない人たち』 山本譲司 24-179(2024.06.23)
- 『奇跡のフォント』 高田裕美 180(2023.06.29)
- 『死にたかった発達障がい児の僕が自己変革できた理由』 西川幹之佑(2022.05.30)
« 『この10年でいちばん重要な文房具はこれだ決定会議』 ブング・ジャム | トップページ | 『怒らない人は、うまくいく。』 中谷彰宏 »
コメント