『海うそ』 梨木香歩
昭和の初め、人文地理学の研究者、秋野がやって来た南九州のとある島。山がちなその島の自然に魅せられた彼は、踏査に打ち込む(本書紹介文より)
それぞれの土地が醸し出す何かが、その土地の色を決めていたのです。独特な言葉があり、独特な食べ物があり、独特な生き方があったのです。それこそが本来の地方色というものなのです。
主人公の秋野が訪れた島は小さな島でしたが、海沿いの村と山の上の村では生活習慣などが全く違うのです。そんな違いが面白くて秋野は調査、今風に言えばフィールドワークを進めていきます。
狩りを仕事とする訳でなくとも、ケガをしたりして亡くなった鹿やイノシシを見つければ、ありがたいという気持ちを持って食べるんです。という地元の人の話をになるほどと頷き、野の花の美しさに心奪われます。
そんな中で耳にした「海うそ」ということば、それは時折発生する蜃気楼のことでした。海のかなたに白い城壁のようなものが見えるというのです。それを一度見てみたいものだと思いながら、秋野は毎日島の中を歩き続けたのでした。
調査が終わってから、一度も島へ行くことはありませんでした。戦争があったり、家族ができて、仕事に追われ、でも島のことを忘れてはいませんでした。
ひょんなことから、50年振りに島を訪れてみて、余りの変化に驚く秋野さん。いろんな思いが頭の中を巡っていきます。
当時、なぜ島へ行こうと思い立ったか、ということもここで初めて明かされます。いろんな出来事が、人生を変えていくのです。50年振りに島へ行くことができたのも、何かの運命なのでしょう。
こういう人生もいいなと思うのです。
1390冊目(今年45冊目)☆☆☆☆☆
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