『ニセモノの妻』 三崎亜紀
三崎さんが描く世界は、いつも身近にあるのです。ありふれた、特に特徴もない家に、普通の人々が暮らしている町に、ある日突然とんでもないことが起きます。でも、そのとんでもないことが決して「ありえないことではない」ことが、とても怖いのです。
- 一生住もうと思って買ったマンションのことを非難する人たちがいる。でも、その理由が分からない(終の筈の棲家)
- 仲良く暮らしていた妻が突然「わたしはニセモノの妻かもしれない」と言う(ニセモノの妻)
- 家の前の坂道を巡って紛争が起きる(坂)
- 家の中に断層が現れる(断層)
夫が「自分の妻がニセモノかもしれないと思う」という話はこれまでもありましたけど、妻本人が「自分はニセモノかもしれない」と言い出すという意外性は凄いなと思います。じゃあ、ホンモノはどこにいるの?ということになるのですが、「ホンモノと見分けのつかないニセモノが現れる」という現象があちらこちらで発生していますという展開にはまいったなぁ!
家の中に断層ができるという話は、物理的に断層ができるという話じゃないんです。家の中に見えない断層ができて、あっちの世界とこっちの世界に分かれてしまうという話で、これが一番怖いなぁって思いました。
マンションの評判や坂道の話と同じような事件は、実際にも起きています。事故や病気で「断層」や「ニセモノの妻」のような状況に陥る可能性もあるのです。
いろんな問題が発生して困っている人がいるのに、周りの人たちはそれを何とも思ってくれない。現象自体は理解してくれても、救いの手を差し伸べてくれるわけじゃない。孤独感、疎外感、やるせなさ、そういうものが人をドンドン追い詰めてしまうというところが怖いのです。
ジワジワと迫ってくる怖さが、三崎さんが描く世界の魅力です。怖いけど、大好きです。
この本は 書評サイト 「本が好き!」 より提供して頂きました。どうもありがとうございました。
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