『不死鳥少年 アンディ・タケシの東京大空襲』 石田衣良
タケシは、父親がアメリカ人で母親が日本人。生まれたのはシアトルなのですが、日本とアメリカが戦争をすることになったばっかりに、父親と姉はアメリカ、母親と自分は日本と、離れ離れで暮らすことになってしまったのです。
ただでさえ外国人の血が混ざった子は差別されるのに、戦時中の日本は更にひどい状態です。目の色がちょっと違うだけで同級生からはいじめられ、先生からは厳しいことばが浴びせられてしまうのです。でも、タケシには仲の良い級友がいて、そんな辛さを耐えることができているのです。
食料が乏しかったり、学校で勉強することができず工場で作業をするばかりの毎日ですけど、それでも昭和20年3月9日までは、それなりに楽しいこともある毎日だったのです。
でも、運命の日「昭和20年3月10日」未明の東京大空襲が、すべてを変えてしまったのです。墨田区のほぼ半数の人が亡くなり80%以上の建物が焼失したのです。その空襲のさなか、タケシは家族を引き連れて、錦糸町の街を逃げ回ったのです。
東京大空襲の時の最大の脅威は「焼夷弾」です。石やコンクリートの建物を壊すなら爆弾ですけど、木と紙の家である日本の家は、火をつけてしまえば簡単に燃えてしまうのです。そして火がどんどん大きくなっていき、町中を焼き尽くしてしまうのです。
10万人の死者、100万人以上の罹災者、この余りにも悲惨な「東京大空襲」を忘れ去らないためにという思いで、著者の石田さんはこの作品を書かれたのだそうです。
空襲で死んだ方に最初は手を合わせていたけれど、その余りの数の多さに、丸太だと思って踏み越えていくしかないという話は石田さんのお母さまの実体験だそうです。
わたしの父は当時水道橋に住んでいて、やはり同じような光景を目にしたと話してくれたことがありました。遺体が多過ぎてどうにもできなかった。それよりも逃げるのに、そして火を消すのに必死だったと。
爆弾を落とした敵に怒りが湧くのは当然ですが、「焼夷弾は消火することができる」、「防空壕があれば大丈夫」など、いいかげんなことを言い続けた自国の政府の方に更に大きな怒りが湧きます。
タケシくんたちが逃げまどった江東橋に住むわたしにとって、この物語は決して他人事ではありません。普通の人たちが、どうしてこんな目に遭わなければならなかったのか?無念でしかありません。
彼らのことを知らない人たちに、是非この物語を読んでもらいたいと思います。そして、世界が平和であることを祈り続けたいと思います。
#石田衣良 #NetGalleyJP
1465冊目(今年3冊目)☆☆☆☆☆☆
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