『空白を満たしなさい』 平野啓一郎
徹生さんは会社の屋上から転落して亡くなり、妻子が残されました。事故かもしれないと調査が行われましたが、自殺であろうという結論になりました。ところが3年後、彼は生き返ったのです。そして、自分は自殺する筈などない。佐伯という男に殺されたのだと言い出したのです。
世界各地で彼と同じように生きかえる人が現れました。彼らは「復生者」と呼ばれました。生き返ったことで家族や友人は喜んでくれましたが、世間や会社は必ずしも歓迎してくれません。生命保険会社は保険金を返せと言ってきます。
せっかく生き返り、家族と共に生きていこうとしているのに、生き返ったということを素直に喜んでもらえない環境下で、徹生さんは悩み続けます。
同じように生き返った人から「分人」という考え方を教えられます。自分という人間はいつでも同じだと思っているけれど、決してそうではない。相手によって違う人間になってしまうのだと。親と、子供と、友人と、同僚と、隣人と、知らない人と、それぞれ違うキャラクターで対応しているのだと。それは多重人格ということではなく、自分の中に別の人が何人も存在しているんだというんです。
この考え方で徹生さんはかなり救われたのでしょうね。自分という人間に対する考え方が随分柔軟になっていったような気がします。
一番分かっているようで、実は一番分かっていないのが自分だということを強く感じる一冊でした。
「君と読む場所」で登場したこの本、読んで良かったです。
1534冊目(今年72冊目)
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