『朔と新』 いとうみく
バスの事故で視力を失った兄、朔(さく)が盲学校から1年ぶりに家に帰って来ました。弟の新(あき)は、その事故に関して少なからず責任を感じていて、ぎこちない対応しかできないでいました。
朔が突然マラソンをしたいと言い出したのです。そして、新に伴走者をして欲しいと頼んできたのです。兄の頼みだから聞いてあげたいのはやまやまだけど、事故をきっかけに陸上競技を辞めてしまった新としては、できることならやりたくないという気持ちでいっぱいなのです。
でも朔の意志は強くて、しぶしぶ練習会に一緒に行くことになります。
新は元々母親とそりが合わなくて、ずっとイライラし続けていました。朔とはこれまで仲良くやってこられたけれど、彼の目が見えないということの重大さと、だからといって彼の自由を束縛してはいけないということ。その狭間で悩み続けます。
新が朔の伴走者をしたことによって初めて知った、自分自身の言語表現力の乏しさ、想像力の欠如。それは相手に対しての申し訳なさを知ることでもあり、自分自身の生きづらさの原因を知ることでもあったのです。
家族だから、こんなこと分かるはずだろうという思いと、家族だからこそ気が付いていないこと。それを知るにしたがって新の考え方も変わっていきます。
自分が自分らしく生きていくということを、何かのきっかけで失ってしまうと、それを取り戻すには大きな力が必要なのです。それは誰かのせいではなく、自分自身の心の問題だから、自分1人だけではどうにもできないことが多いのです。そんなときに、ちょっとした言葉をかけてくれる誰かの存在が大事なのだなと思いました。
自分の人生の伴走者となってくれる人、あなたにはいますか?と聞かれたような気がします。
2020年2月2日 別府大分毎日マラソンの視覚障害のクラスで、東京パラリンピックの代表に内定している道下美里選手が、自らの世界記録を2分近く更新する2時間54分22秒の世界新記録をマークして優勝しました。
こんな素晴らしい記録、すごく嬉しいニュースでした!
#朔と新 #NetGalleyJP
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