『編集ども集まれ!』 藤野千夜
主人公の小笹さんは神保町の出版社でマンガ雑誌の編集者になりました。だから、この本の中にはマンガの話がたくさん登場します。原稿を取りに行ってもなかなかもらえなかったり、次の作品をお願いしたいと電話した時にも「はい、いいですよ」程度のそっけない返事しかもらえなかったり。
それが当たり前というば当たり前だったのでしょうけど、依頼の電話にとても丁寧に答えてくれた蛭子さんのことを「いい人だ」と評価しているところが面白かったなぁ。
マンガと言えばやはり手塚治虫先生で、先生がらみの話がかなり多かったですねぇ。「平成元年の1月に天皇が崩御し、2月に手塚治虫が亡くなった。」という表現が、手塚治虫をいかに愛していたのかを感じさせてくれました。
昭和天皇が入院しているというニュースを毎日聞いていたころ、わたしの勤め先が半蔵門にあって、「半蔵門病院に手塚治虫が入院しているらしい」という話を聞きました。「東大病院に入院して、治りそうな人はそのままいるんだけど、ダメな人は半蔵門病院へ転院するらしい」という噂が飛んでいて、まさかと思っていたけど、ホントに亡くなってしまって、凄く悲しかったことを覚えています。
小笹さんは戸籍上は男性だけど、心は女性で、会社の同僚にはそういう自分をカミングアウトしていました。化粧し、スカートを履いて仕事をしていたのですが、編集者という仕事では特に支障はなかったはずです。なのにある日、会社から「女の格好をするなら辞めてくれ」と言われてしまったのです。
理不尽な理由ですけど、こういう目に遭った人は結構いただろうし、今もいるのでしょうね。性同一性障害ってのは、なかなか理解されないからなぁ。でもね、本人にとってはもの凄く重要なことなんですよ。スカートと仕事のどちらを取るか?って言われて、スカートと答えるとは、会社は予想してなかったんだろうなぁ。
結局、会社を辞めてから小説家として成功したからよかったけれど、もし、そういう才能がなかったら、収入が無くなって死んじゃってたかもしれないのに、酷い話だなぁって思います。
どうやら、この話は著者の実体験を書いたものらしいんですけど、こうやって文章としてまとめられるってスゴイですよね。楽しかったことも辛かったことも、淡々と書かれていて、同じような悩みを持っている人にとって、小さな希望になるんじゃないかなって思えます。
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