『記憶喪失になったぼくが見た世界』 坪倉優介(再読)
NetGalleyJPさんにアップされていたので、再読しました。
記憶がまったくなくなってしまったという状態が、他者にとっては理解しがたいことなのだということを再確認してしまいました。
本人が一番大変なのは当然ですが、一緒に暮らしている家族、特にお母さんは大変だったろうなぁと思うのです。
なぜって、優介さんがどこまでわかっているのか、わかっていないのか、それがわからないのです。
ごはんを噛んで食べるとか、お風呂はお湯になってから入るとか、そんなことわかっていて当然と思っているようなことすらもわからない(知らない)ことだらけなのです。
わたしたちは赤ちゃんの頃から色んなことを時間をかけて学習してきました。それを一気に覚えなければならないから大変なんです。
お母さんが細かいことに気を配っているのと比べて、お父さんはかなり突き放している感じがしていたのですが、ある時点から、お父さんのような「じゃぁ、やってみな」という対応がとても大事なんだなと思えてきました。
細かく心配する母、大胆な父、この両方があったからこそ、優介さんは大学に通えるようになり、仕事もできるようになったのですね。
そして、優介さんが最後の方で語っていた「事故で記憶をなくしたから、できません」という言い訳はしたくないなぁという言葉は、凄いなぁと思うのです。記憶がないからできないことがたくさんあるのに、それをわかってもらえない。説明しなかったら変な人だと思われるだけなんだけど、説明ばっかりしていてもうるさがられる。そんなジレンマから、やっと抜け出すことができたからこその、この言葉なんだなと思いました。
どんな病気であれ、障害であれ、本人にしかわからない悩みというのがたくさんあります。他人は勝手に想像して「かわいそう」とか「しかたない」とか「めんどうだ」とか言うけれど、本当の所をわかっていないから、そう言えてしまうんだなと思います。
この本を読んでみて、健常者の冷たい部分、勝手な部分に沢山気づきました。こういう視点の本って大事だなと思います。大勢の方に読んでもらいたい本だなと思います。
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