『ワイルドサイドをほっつき歩け ハマータウンのおっさんたち』 ブレイディみかこ
労働者階級は白人だけのグループではなくて、黒人やパキスタン人やインド人、中国人、フィリピン人などが含まれれている。また、欧州全土からやってきた人々も含まれている。それが広く理解されていれば、右翼政党UKIPの元党首、ナイジェル・ファラージのような「移民は労働者階級の敵」みたいな言説が支持を集めることもなかったはずなのである。(本文より)
こういう視点って、みかこさんが白人でないからこそ分かることなんだなって思います。「労働者階級とは白人で、ブルーカラー」というような狭い解釈でいるからこそ移民などを排斥したいという思想につながってしまうんですよね。
ここでは英国の話として語られていますけど、これは日本でだって同じことです。外国からの労働力がなければ困るクセに、外国人という線を引いてしまう考え方をしているところは、余りにも自分勝手で悲しいです。
英国人のブラックキャブ運転手が、ムスリム女性が運転するウーバー車に乗って走り去っていく姿は、時代を端的に象徴してるなと思いながら走り去る車を見ていると、テリーが言った。
「無人車が走る時代になりゃ、どっちも失業だよな。こういうもめごともあったよなあ、と振り返る遠いメモリーになるさ」
パーティーで酔っ払ったタクシー運転手が、終電を逃さないためにしょうがないので呼んだウーバー(タクシー)の運転手がムスリム女性(移民)って、確かに時代を象徴してるなぁって思うシーンでした。ウーバーのせいでタクシーの客が減ってさと文句を言ってられるのも今のうちって言える高齢者はいいけれど、先が長い若者たちはどうなっていくんだろうって、みかこさんは心配しています。
「ハマータウンのおっさん世代」にとっては人生の伴走者だったアルコール事情の変化には、ある意味、世代論や階級論よりも鮮やかに地べた社会の変遷が透けて見える。
そろそろしらふで生きる決意をする者もいれば、しない者もいる。今後の英国における平均寿命の延びは、このあたりにかかっているとも言えるだろう。
英国のおっさんたちが酒好きなのは自他ともに認めるものでしたけど、それも少しずつ変わってきているようです。アルコール依存症の家族や近隣の人たちを見て、あれはまずいと思う人もいれば、自分が病気になって遅ればせながら酒を辞めようとする人もいます。医療制度に不安がある英国では、病気にならないことがとても大事なんだって思う人も多いのでしょう。
フットボールとビールが生きがいな「ハマータウンのおっさんたち」は、少しずつ減っていくのかなぁ?飲んだくれなところを除けば殆どがいい人たちなんだけどなぁ。健康に気を使い、体重が増えないようにエクササイズし、ビールよりも発泡ワインが好き、それじゃカリフォルニアの人みたいじゃないっていうみかこさんの視点、とても良く分かります。
ビール腹だろうが、タトゥーがあろうが、必死にデモに参加しているハマータウンのおっさんの方が、真面目に生きているというメッセージが伝わってくるような気がするのです。
#ワイルドサイドをほっつき歩け #NetGalleyJP
1809冊目(今年114冊目)
P.S. ピーター・バラカンさんのラジオ番組に出演された時のインタビュー内容がポッドキャストで聞けます。
https://www.tfm.co.jp/podcasts/museum/detail.php?id=26178
みかこさんの声を始めて聞きました。
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