『ほんのちょっと当事者』 青山ゆみこ
毎日のニュースで、様々な事件や事故が伝えられ、当事者は大変だろうねなんて思うことが多いのですが、誰だって少なからず当事者になっているわけで、それを他人に伝えていないだけだったり、それに気付いていないだけだったりするのです。
女子だったらほとんどの人が当事者であろう「痴漢」や「セクハラ」だって、ちょっと前までは大きな声で言うような問題とされてはいませんでした。とても深刻な問題なのに、まだまだ扱いは小さいのです。
介護の問題だって、実際に自分が当事者にならないと気がつかないことだらけで、それを誰に相談していいのか分からない人がほとんどです。家族がすべて世話しなければいけないと勝手に思い込んでいたり、自分だけが世話をさせられて不幸だと感じたりしている人が大勢いるんです。
障害がある人には優しく接しないといけないとか、少しでも手助けできたらなんて考える癖に、自分が他人から障害者だと思われていると感じたとたんに、妙な嫌悪感が生まれたというところでは、「ああ、こういう感覚って嫌だけど、自分も持ってしまうな」と思ったのです。
自分が相手よりも上であるという優越感を変なところで持ちたがる、自分のちっちゃいプライドみたいなものに邪魔されるんですね。そんなものいらないのに、どうしてなんだろう?障害者や病人を下に見たがる気持ちって、悲しいなぁと思いました。
著者がお母さんと上手くやっていけなかった日々のことが色々と書かれていますけど、多かれ少なかれ皆そういう気持ちを持ってるんです。でも、それに気付けなくて、自分ばっかり悪いように感じている人も多いから、著者のように母親の悪いところをキッチリと言うことも大事だなと思います。それを一生引きずって生きてる人が余りにも多いですから。
どんなことも他人事として見ている間は冷静なんですけど、当事者になるとオロオロしてしまう。それって、自分の不甲斐なさを突き付けられるからなんでしょうね。初めての体験なんだからしょうがないじゃないって思えるようになるには、それなりの時間をかけて勉強する必要があるんですね。
後になって、その正体がわかってしまえば「ああ、馬鹿なことをしたなぁ」って思えることがほとんどです。いろんな経験をして、いろんな当事者になって、毎日勉強なんですよ、人生って。
この9章が収められています。
- 暗い夜道と銀行カードローンにご用心
- 「聞こえる」と「聞こえない」のあいだ
- 奪われた言葉
- あなたの家族が経験したかもしれない性暴力について
- 父の介護と母の看取り。「終末期鎮静」という選択
- 哀しき「おねしょ」の思い込み
- わたしは「変わる」ことができるのか
- わたしのトホホな「働き方改革」
- 父のすててこ
1868冊目(今年173冊目)
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