『歩く江戸の旅人たち』 谷釜尋徳
江戸時代に旅行するとなると、移動手段は徒歩しかないのですが、驚くほど大勢の人が旅を楽しんでいたのです。その中でも特に流行ったのが「お伊勢参り」です。全国から伊勢神宮(三重県)へと大勢の人たちが旅したのです。当時は通行手形を手に入れないと旅行ができなかったので、お伊勢参りという信仰をタテにして手形をもらうというのが、ほとんどの人にとって一番簡単な方法だったようです。
もちろんお伊勢参りといっても、途中の場所で観光もしています。東北から伊勢へ向かった人たちが、途中で江戸観光をしたという記録も残っています。
徒歩で移動するということは、かなりの距離を歩く必要があります。文献を調べてみると、1日平均35kmくらい歩いていたという計算になるそうです。これはあくまでも平均なので、その日によっては50km以上歩くこともあったとか。江戸時代の人たちの健脚さには驚いてしまいます。
そして履物ですが、草鞋(わらじ)が多かったようです。日常的に履いているつっかけるタイプだと長距離歩行には向かないので、紐を足首の方にも回して足にフィットさせた状態で履いていた人が多いようです。草鞋はわらでできていますから2日くらいで擦り切れてしまいます。草鞋の替えは旅籠で買ったり、草鞋売りから買ったり、現地調達がほとんどだったそうです。そして、擦り切れた草鞋を捨てる場所というのがあって、ちゃんとリサイクルされていたというのにはビックリでした。
徒歩の旅とはいえ、交通費もかなりかかります。当時は大きな川には橋がかけられていませんでしたから渡し舟などに乗る必要があります。そして毎日の宿、食事、お土産、かなりの金額になりますから、みんな旅のためにせっせとお金を貯めていたのでしょうね。
ウォーキング好きのわたしにとって、毎日35km歩いていたという彼らの健脚の秘密がとても気になります。この本の中で挙げられていたのは、「なんば歩き」と「つま先歩き」です。西洋式の右足を出す時には左手を出すという歩き方ではなく右手と右足を一緒に出すようにしてあるく「なんば歩き」。西洋式のかかとから着地する歩き方ではなくつま先から歩くという歩き方なんですね。 最近マラソンで話題になった厚底シューズは、つま先から走ることを考えて作られたものです。アフリカの人たちは靴を履かずに走っていたので、つま先で走っているのを研究してできた靴なのだそうです。そんな点と合致して、つま先歩きこそが合理的な歩き方なのかもしれないと思えてきました。
毎日特別なトレーニングしていたわけでもないのに、こんなに歩けた江戸時代の人たちは、日常生活がそのままトレーニングになっていたのでしょうか?人間の能力ってまだまだ引き出せるのかもしれないって、妄想が広がっていきます。実に面白い本でした。
1887冊目(今年192冊目)
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