『夢見る帝国図書館』 中島京子
フリーライターのわたしは上野公園で喜和子さんという不思議な女性に出会いました。彼女は帝国図書館を主人公にした物語を書きたいと思っているのだけど、自分ではうまく書けないので、代わりにわたしに書いて欲しいというんです。
喜和子さんは子供の頃に上野で暮らしていた思い出を話してくれます。それはとても不思議で、それが本当のことなのか、彼女が作り上げた夢なのかわからないような話なのです。
喜和子さんを巡るお話と、帝国図書館を主人公にしたお話が交互に語られるのですが、いずれも歴史に翻弄された人生だったのだなと思います。帝国図書館が人間だったら樋口一葉に恋したかもしれないというところも、喜和子さんがかつてと違う人生を生きようとしていたことも、どちらも楽しくて辛い歴史だなって思います。
帝国図書館のお隣の動物園の動物たちのつぶやきも重い話だなって思いました。象の花子さんと黒豹さんが、彼らは戦争が原因で自分たちが殺される運命だということを知っていながら、檻の中から逃げることのできないという会話をしているところが、どうにも切なかったのです。
それにしても帝国図書館は、せっかく作ったにも関わらず、国からは余り大事にされてこなかった歴史があるのですね。図書館で働く人たちは、それはそれは頑張っていたのにね。現場の人たちと、組織の上の方の人たちの温度差というのは、今も昔も変わらないんだなぁって、ため息ついちゃいました。
今度上野公園へ行ったら、この本ゆかりの場所へ行ってみて、帝国図書館のなごりを探ってみようと思います。
いつか、図書館で会おう。
1909冊目(今年214冊目)
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