『その果てを知らず』 眉村卓
SF作家として著名であった眉村さんの遺作です。この本の主人公は老作家、多分眉村さん自身がモデルなのでしょう。
サラリーマンをしながら小説を書き、同人誌や雑誌に投稿していたころのことがかなり詳しく書かれているのです。1960年ころ、まだ新幹線がなかった時代に自宅のある大阪から東京の出版社まで、しばしば訪れていたところが描かれています。定宿にしていた商人宿のこと、長距離列車のこと、神田にある出版社(たぶん早川書房だと思います)のことなど、60年前の東京はそんな感じだったんだなぁって感慨深かったです。
早川書房のある辺りは、今でも昭和の雰囲気が少し残っている所なので、またあの辺りを歩いてみたくなりました。
老作家は所用があって久し振りに東京にやって来ました。宿とした丘ホテルとは、きっと山の上ホテルなんだろうなぁと想像してしまいました。あそこは作家がカンヅメになるので有名な場所。きっと眉村さんにとっても、たくさんの思い出が詰まった場所だったのでしょうね。
現実と幻想、想像と認識が、区別しにくくなってきている。(本文より)
この作品は、老作家の日常生活や若かったころの回想がランダムに語られていくのですが、それが単なる思い出なのか、夢なのか、作家が書いているSF作品なのか、ときどき分からなくなってくるのです。不思議な人が現れて、もう文章を書かないでくださいと言われたり。娘から瞬間移動の話をされたり。新婚の頃に住んでいた社宅が台風でたいへんな被害に遭ったり。
うわぁ、怖いなぁというシチュエーションなのに、妙に落ち着いていたり。どうってことない場所でドキドキしていたり。昔の話をしているかと思ったら今の話だったり。テレポーテーションやタイムスリップがいきなり出てきたりして、やっぱりSFなのかなぁって思ったり。
作品中に星新一さんや筒井康隆さんだろうなぁって思える作家さんが登場して、クスクスと笑ってしまう所もありました。
おじいさんの昔話と思わせておいて、実はとてもSF的な作品なんだなぁって思います。
#その果てを知らず #NetGalleyJP
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