『定価のない本』 門井慶喜
神保町の古書店は、第二次世界大戦の戦火で多くの書店や書物を焼失しましたが、地方へ行けばたくさんの書籍があったのです。そういった本を求めて全国へ足を運び、書籍を買い集め、古書店は復活していったのです。見る目のある人が見れば価値あるものであっても、それを知らない人たちはそれを焚きつけに使ったりしていたというので、必死に買い集めていた人がいたというのは、いかにも神保町の歴史という感があります。
主人公の庄治は神保町の書店に奉公し、書店の仕事を覚えてきました。その店で仕事を続けている人、その店から独立して自分の店を作る人がいます。独立した彼は、没落した名家から貴重な書籍を買い取るために地方へ出かけたり、展示会へ参加したりという様子がとても興味深いのです。
物語は、ある古書店の店主が本に押しつぶされて死んでいるのが見つかったことから物語が始まります。警察は事故だと言うけれど、亡くなった男の友人でもある主人公は、これは他殺ではないかと感じたのです。そして、更に事件が発展していって。
戦後まもなくという時代なのでGHQも絡んできます。GHQの将校相手に英語で話をする主人公が何故英語を話せるのかという部分も、なかなか興味深いところでした。書店員というのは何と勉強熱心なのかと感心します。
そしてその将校に対して日本の文化は紙に書かれた書物だけでなく、こんなのもあるんだよと木簡を見せるあたりに古書店の気概を感じたのでした。
殺人事件が物語の発端でしたけど、ミステリーというよりも神保町の本屋の生きざまが面白いストーリーでした。
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Rokoさん、私も読みました。
最初は古書ミステリかと思ったら、後半の頭脳戦が面白かったです。古書店は、文化を守る砦なのかもしれませんね。
門井慶喜さんは歴史好きのツボをつくテーマ絶妙なテーマが多いので他にも読みたい本がたくさんあります。良い本を紹介していただき、ありがとうございました♪
投稿: 日月 | 2020年11月20日 (金) 16:55
日月さん☆コメントありがとうございます。
意外な展開が面白かったですよね。
門井さんの作品を読むのはこれが2作目だったのですが、他の本も読んでみようかと思います。
投稿: Roko(日月さんへ) | 2020年11月20日 (金) 18:57