『わたしの宝石』 朱川湊人
朱川さんの描く世界は、いつもノスタルジーを感じます。今はもうなくなってしまったけど、子供の頃に存在していたもののことを思い出すと、何故か当時の友だちのことや、町のにおいを思い出します。
「マンマル荘」のようなアパートは、家の近所にもありました。アパートの玄関を入ると、横に各部屋の郵便受がありました。今と違って鍵なんか掛からない木製の状差しみたいなものでした。靴を脱いで玄関を上がると、細長い廊下があってその両脇にそれぞれの部屋がありました。一番奥には共同のトイレと炊事場があって、いろんな人が共同生活をしているような感じでした。
玄関はいつも空きっぱなしだし、各部屋の鍵だってとっても簡単なもので、昔は治安が良かったのか、それともこんなところに泥棒に入ってもしょうがないと思われていたのか、セキュリティなんて言葉とはまるでかけ離れた世界でした。でも、お互いのプライバシーは意外と守られていて、みんな思いやりがあったのかなぁなんて思います。
「思い出のセレナーデ」の千晶さんが大好きだった真理ちゃんや百恵ちゃんの歌を聞くと、当時の思い出が蘇ってきます。あの頃はいつも明日は今日よりいい日だって思ってたんですよね。そんな希望に満ちていた気持ちはどこへ行っちゃったのかなぁ?
この6作品が収められています。
〇さみしいマフラー
真奈美ちゃんには、他の人には見えないものが見えていました。さみしい人を見ると、その人の首のまわりにマフラーのようなものが見えるのです。
〇ポコタン・ザ・グレート
ポコタンは大柄で力が強いけど、とても心優しい女の子でした。そんな彼女に男子は酷いことばっかり言うんです。
〇マンマル荘の思い出
こどもの頃、お母さんと僕はマンマル荘に住んでいました。そこへ行ってみると建物はもうなくなっていました。でも思い出がたくさん蘇ってきます。
〇ボジョン、愛してる
韓流のアイドルグループの中にいて、一番地味な女の子ボジョンのことがとても好きになってしまった40男の独り言。
〇思い出のセレナーデ
幼なじみの千晶ちゃんは、歌を歌うのがとても好きな子でした。ずっと仲良くしていたのに、突然彼女はどこかへ行ってしまったんです。
〇彼女の宝石
とても美人の彼女と結婚して、最初は上手くいっていたんだけど、彼女は僕の元から離れて行ってしまいました。
どの作品も一人称で語られる思い出がノスタルジックで、ほの悲しくて、わたしにもそんな思い出があるなぁって思わせてくれるところが朱川さんのステキな所だなって思います。
1921冊目(今年226冊目)
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