『メンタルの強化書』 佐藤優
正規雇用と非正規雇用の二極化によって起きるさまざまな出来事に対して、本来責任を持つべきは雇用者であり、資本家の側だという結論になるはずです。
私は、非正規雇用者に向けられた「自己責任論」は、雇用者側が本来取るべき責任を、自由度の少ない弱者に転嫁する「責任転嫁論」にほかならないと考えます。むしろ「自己責任」を追及されるべきは雇用者側ではないでしょうか?(本文より)
ですから、非正規で働いているのは、その人の能力が低いのだとか、努力が足りないのだとかという自己責任の理屈は成り立たないのです。だから、無駄に自分を卑下する必要はないのです。自分が悪いのだと思い込まされているということを理解できたら、少なくとも劣等感は減ります。
失業率はさほど酷い数字ではないと政府は言いますが、それはあくまでも数字のトリックです。失業率とは仕事を探しているのに見つからない人をカウントしています。ですから、ハローワークへ行っていない人はカウントされません。仕事が見つからなくて諦めてしまった人も含まれていません。
そして、失業していなくても非正規として働いているがゆえに経済的に困窮している人は非常に増えています。
「同一賃金同一労働」というお題目は何の効果もありません。「非正規の人には責任ある仕事をさせてませんから」という言い訳で別の種類の労働だとされているのが現実です。学校を卒業してすぐに就職して、その時は正規雇用であったとしても、そこをやめて次の仕事を探す時、正規雇用の仕事などほとんどないのです。
いま日本は、”独身社会化”が加速しています。50歳の時点でこれまで1度も婚姻の経験がない「生涯未婚率」は、1985年には男女とも約5%だったのに対し、2019年時点での最新データは男性23.4%、女性14.1%と急増しています。
内閣府から発表された推計値によると、この数字は今後も漸像し続け、2040年には男性が29.5%、女性が18.7%となるそうです。実に男性の3人に1人近くが生涯独身という予測が出ているのです。
国家としては非常に由々しき問題ですが、二極化がさらに進む社会で、経済的に余裕がなくなり、結婚を避ける動きはさらに加速すると考えられます。
これは生涯独身ということですから、離婚した人を含めたら、50歳、60歳の時点でもっと多くの人たちが独身だということになります。
少子化うんぬんの一つの要因はここにあるのではないでしょうか。政府が考える子供が生まれる状況というのは結婚した男女間が基本です。結婚しなければ子供は生まれないことになります。もし結婚しないで子供が生まれたら、シングルマザーが増えるということです。すると貧困の問題が増えます。この部分を真剣に考えないでいる政府は無責任です。
ですから、この問題に関しても個人がメンタルを弱める原因にしてはいけないのです。一個人の問題ではなく国家としての考えが足りないからなのですから。
昭和の時代、会社はコミュニティとしての意味を持っていました。会社という村社会が個人を守ってくれるという側面もあったのです。でも、そんなものは今は存在しません。家族がいない、故郷や地域のコミュニティに属していない人は、孤独になるしかないのです。
人間はひとりでは生きられません。過干渉は嫌だけど、気の合う人との付き合いは失くしたくない。という気持ちがコロナ禍になって益々強くなったのではないでしょうか。
若いうちは、どこへでも出かけていけたけど、思うように動けなくなる老後の生活では近所に友達がいて欲しいという思いはこれからの主流になるでしょう。共同で生活することもあるでしょう。同じ施設で暮らすということもあるでしょう。
国のGDPがどうのこうのなんて、もうどうでもいいことなのです。それよりも、みんなが心豊かに暮らせる場所があるということこそが大事なんです。
メンタル(心)の健康を保つには、やっぱり仲間なんだなというのが、この本を読んでわたしが感じた結論です。
この本の中で佐藤さんは「自助・共助・公助」が大切と語られていますが、某首相が言っているのとは全く違う意味で語っているのが印象的でした。
1930冊目(今年235冊目)
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