『化け者心中』 蝉谷めぐ美
藤九郎さんは百千鳥(ももちどり)という愛玩用の鳥を扱う店の2代目です。彼から買った金糸雀(カナリア)の羽を折ってしまった魚之助(ととのすけ)さんのことを、藤九郎さんは、とんでもない奴だと思っています。なのに、ととさんからは気に入られてしまっていて、しょっちゅう声がかかるのです。
ととさんは元女形、いつもきれいな女ものの着物を着て、おしろいと紅も忘れません。人気女形だったのに、舞台で暴漢に足を刺されて、それが原因で足を切ることになってしまって歩くことができません。舞台にも立てなくなりました。だから、どこかへ行きたいときには藤九郎さんに背負ってもらっているのです。
ととさんが昔出ていた芝居小屋に鬼が出たということで、ととさんに鬼を探してくれという依頼がかかります。自由に歩くことができないととさんの足となった藤九郎さんは、この事件に首を突っ込むことになってしまったんです。
家柄だけが取り柄で芸が追い付かない人。人気はあるけど人間的にはまるでダメな人。一生懸命に稽古をするけれど華がない人。歌舞伎の芝居小屋の中の人々は、みんな一癖ある人ばかり。それでも、個室をもらえるような役者はまだいい方で、大部屋の役者はよっぽどのことがなければまともな役はできません。馬や狐の役だったり、人気役者の使い走りだったり、それでも役者という仕事にしがみついて生きている人が大勢いるのです。
そもそも、鬼と人との境目ってえのはどこにあるんですか。そんなら、男と女の境目は(本文より)
ととさんの我儘に付き合わされるのに、いい加減嫌気がさしていた藤九郎さんでしたけど、付き合いが長くなるにつれ、ととさんの悲しみや生き様が少しずつ理解できるようになっていくさまが面白かったです。
そして、吉原の蜥蜴さんと、ととさんのつながりは、悲しいけれど大事なつながりだったのですね。そして、ととさんを慕う「める」さんの気持ちも深いものがあるなぁ。最後に明かされる鬼の正体も、悲しいけれどそういうものなのかなと思えるものでした。
上方の役者と江戸の役者の軋轢とか、御贔屓さんのバックアップもあれば贔屓の引き倒しもあって、面白い作品でした。
読み終わってからふと思ったんだけど、白粉の鉛中毒で足を切ったエノケンさんや、暴漢に刃物で襲われた長谷川一夫さんのイメージで、ととさんが描かれてるのかしら?
#化け者心中 #NetGalleyJP
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