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『文盲 アゴタ・クリストフ自伝』

文盲

アゴタ・クリストフ自伝

堀茂樹 訳

スイスに来て5年経った。わたしはフランス語を話す。けれども、読むことはできない。文盲に戻ってしまった。4歳で本を読むことのできたこのわたしが。(本文より)

 ハンガリー生まれのアゴタはオーストリアへ逃れ、そこからスイス・チューリッヒの難民センターへたどり着きました。学生時代はロシア語での教育を受け、難民としてたどり着いた地ではフランス語の生活になったのです。仕事し、子供を育て、最低限必要な言葉は話せるようになったけれど、文字を読むことができなかったのです。

 父親が学校の先生だった影響もあって、子供の頃から本を読むことが大好きだったのに、目の前に本はたくさんあるのに、それらはフランス語だから読めないのです。

 幸いなことに彼女は教育を受けることができ、フランス語を読み書きすることもできるようになったのです。まずは日記を書き、暇があれば文章を書き、戯曲を書けるようになって、でもフランス語は母国語でない言葉だから、どこか他人の言葉という感覚があるのです。

 自分の母国語で生きていけない辛さはどんなものなのか、わたしには想像もつかないのですが、それでも自分にとっては外国語であるフランス語で文章を書き続けたアゴタは凄い作家だと思います。

 悪童日記は世界中で翻訳されるほどのベストセラーになりました。あの本が書かれたバックボーンには、この自伝で語られているアゴタ自身の体験が生きているのだなと強く感じました。

1938冊目(今年243冊目)

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