『オール・アメリカン・ボーイズ』 ジェイソン・レノルズ ブレンダン・カイリー
黒人の少年ラシャドはポテトチップスを買いにいった店で万引きを疑われ、白人の警官から激しい暴行を受け入院する。それを目撃した白人の少年クインは、その警官が友人の兄のポールだと気づき現場から逃げた。事件の動画がテレビやネットで拡散し、ラシャドとクインが通う高校では抗議のデモが計画され、2人はそれぞれの人間関係の中で、揺れ動く自分の心をみつめることになる。
事件の当日からデモが行われるまでの8日間を、黒人作家のレノルズが黒人の少年ラシャドの視点から、白人作家のカイリーが白人の少年クインの視点から交互に描き、まさにアメリカの今を映し出す感動作。
ブラック・ライブズ・マター(BLM)の運動が大きなうねりとなっている全米で30万部を突破。
ウォルター・ディーン・マイヤーズ賞、アメリア・エリザベス・ウォールデン賞受賞作。ニューヨークタイムズ・ベストセラー。(内容紹介より)
ラシャドは何だかわからないうちに警官に暴行され、鼻の骨と肋骨を折られて病院のベッドに寝ていた。こんな理不尽なことがなぜ起こったのか、まるで分らないのです。
次の日になったら、この事件を目撃していた人が動画を撮っていて、その動画がネットやTVで見た人が増えて、大騒ぎになっていたのです。「また、白人警官が黒人少年を暴行した」「いや、警官がやったことは正しい」両方の意見がネット上で、町の中で飛び交っているのです。
白人少年のクインは、その警官が自分の友人の兄ポールだと気付き動揺します。あんなにいい人が、そんなことをするわけがない。そう信じたかった。でも、自分と同じ年頃の少年が怪我をして入院している。どちらが正しいのか?そんなことを考えているとどんどん訳が分からなくなってきます。自分は白人だから白人の味方をしているだけなのか?いや、ポールはいつも自分に優しくしてくるいい人だ。でも、なんであんなことをしたんだろう?どうにも分からないんです。
多分、当事者たちにも分からないことがたくさんあるのだと思います。警官だって怖いから暴力をふるってしまうのかもしれないし、人種差別の意識が心のどこかにあるから、黒人少年を見ただけで悪者だと判断してしまっているのかもしれないし。
黒人少年たちが子供の頃から親に「周りから怪しまれないようにしなさい」と教わってきているという事実は、人種差別問題の根深いものを感じます。ギャングや不良と思われないようにきれいな服を着て、手はポケットから出して、何かあったら口答えせずに手を上げる。そういう教育をしていても、勘違いで撃たれたり殴られたりする子が後を絶たないのです。
こういう感覚って、昔の日本にもありました。「不良と間違われないように服をきちんと着て外出しなさい。」「女の子は痴漢に遭わないように露出度の高い服を着て出歩いちゃいけません。」こういうことだって、根っこのところはアメリカの状況と同じです。
本当は強盗や痴漢の方が悪いけど、そういう目に遭わないように目立たないようにしてなさいという教えを親はするのです。子供の方はあまり真剣に聞いてませんけどね。でも、外の世界には何を考えているのか分からない人が大勢いるから、そうやって自分で自分を守るしかないんだってことなんです。
日本にいると人種問題ってピンとこない人が多いけど、日本人だってアメリカへ行ったらマイノリティですから、人種差別を受ける方なんだってことを知っていないと!
そして、日本人の中にある「ガイジン」という感覚。これも人種差別なんだよってことに気付かないと!
世界にはいろんな人がいて、いろんな姿をしていて、それぞれの生活を送っているんです。自分の基準だけでは理解できない人が大勢いる。でも、それは決して悪いことじゃないんです。多様性があるからこそ世界は面白いのであって、すべてを1つにしてしまおうなんて考え方は危険だってことを知らないと!排他的な考えは、最後には破滅するものなんだってことを、今こそ真剣に考えなければならないと思うのです。
Black Lives Matter という言葉が大きく取り上げられています。USオープンに出場していた大坂なおみ選手のマスクには被害者たちの名が書かれていました。これを発端に、彼らがどういう状況で亡くなったのかを知る人が増えました。人種差別はあってはならないことです。でも、世界中に蔓延しているウィルスのような思想なのです。これを無くしていくには、まず事実を知ること。そしてそれが他人事ではないと知ること。そこからすべてが始まるのだと思います。
#オールアメリカンボーイズ #NetGalleyJP
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