『十二人の手紙』 井上ひさし
この本が最初に出版されたのが1978年です。あのころはまだまだ手紙のやりとりが多かったですね。田舎から荷物を送るから受け取ってねという手紙が来たり、雑誌にペンフレンド募集のコーナーがあったり。
手紙はほとんどの場合、個人から個人へのものです。手紙を受け取った人は、たいていはその内容を真実だと思って読みます。「あら、良かったわねぇ」「元気でいたのね」「大変だったのね」なんて勝手に思うわけです。
でも、嘘が書かれた手紙というのもかなりあります。親に心配をかけないように「みんなと仲良くやってます」「元気でやってます」なんてのはいい方で、ありもしない理由を作り出してお金の無心の手紙を書いたという話も昔はよく聞きました。
この本の内容は、ほとんどが手紙文です。手紙は一人称の文章が続くので、この人はどんな人なんだろう?と想像を膨らませながら読んでいました。地方から家出して来た子が恩師に書いた手紙だったり、離れた場所で仕事をしている夫から妻への手紙だったり、それぞれの思いがあって、勝手なようでいてもそれなりな言い分があるのです。その中に「始末書」や「起訴状」が突然登場してドキッとしたところもありました。
地方から出てきた子の務め先や寮が小岩だったり、錦糸町だったり、うちの近くの地名が出てくるとドキッとしちゃいます。昔こんな人が住んでたのかなぁなんて想像してみたり。
すっかり手紙って書かなくなりましたねぇ。文章の中身もそうだけど、手書きの文字から書き手の性格や状況を想像するということが昔はあったなぁって、懐かしく思う本でした。
1936冊目(今年241冊目)
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