『口笛の上手な白雪姫』 小川洋子
この本には8編の短編が収められています。いずれも少し昔の不思議な物語です。
特に気になったのは表題作の「口笛の上手な白雪姫」です。公衆浴場の隣に住んでいる小母さんは、日中はずっと女風呂の脱衣室にいて、赤ちゃん連れのお母さんから赤ちゃんを預かっています。天花粉を振ったり、軟膏を塗ったり、飲み物を飲ませたり、あやしたりがとても上手な小母さんなので、みんな安心して赤ちゃんを預けて、その間にゆったりとお風呂につかることができるのです。
昔の公衆浴場の女湯には、お手伝いをしてくれる女性がいました。「時間ですよ」の美代ちゃんみたいな人です。その人が脱衣所の片づけをしたり、桶の整頓をしたり、赤ちゃんを預かったりしてくれていました。帰りに赤ちゃんをおんぶする時に手伝ってくれているのも何度も見ました。
子どもの着替えを手伝ってくれたり、のぼせちゃった子に水を飲ませてくれたり、こういう人がいたから、小さな子どもがいてもお母さんは安心してお風呂に入れたんです。今よりも、そういう面ではいい時代だったような気がします。
小川さんの描く世界には、ちょっと昔の、人間のぬくもりが溢れている感じが溢れています。自分の子ども時代のことをいろいろと思い出します。あの頃は今よりも不便だったかもしれないけど、みんな優しかったなって思います。
人と人との触れ合いが減ると、人間らしさも減ってしまうのかな?それは悲しいなって思います。
「先回りローバ」
吃音のぼくは、電話番を両親から言いつかったのだけど、電話がかかってくるのが怖いので、電話の時報をよく聞いていました。
「なき王女のための刺繍」
そこのお店には、上手な刺繍をしてくれる女の人がいました。わたしは知り合いに子どもが生まれるたびに、プレゼント用にそこのお店でよだれかけに刺繍をしてもらうのです。
「かわいそうなこと」
かわいそうなことをノートに記録している少年がいました。
「一つの歌を分け合う」
伯母と一緒に観に行った「レ・ミゼラブル」の思い出を胸に、もう一度舞台を見に行った青年がいました。
「乳歯」
外国の町で迷子になってしまった少年は、意外と落ち着いて周りを眺めていたのです。
「仮名の作家」
小説家MM氏の熱烈なファンである女性は、彼の講演会やサイン会に足繁く通っていたのです。
「盲腸線の秘密」
曾祖父と孫は、もうすぐ配線になってしまう盲腸線に乗るために、度々2人で出かけていました。
「口笛の上手な白雪姫」
公衆浴場のすぐ隣の小さな家に住んでいる不思議な小母さんがいました。
どのお話も、本当にそんな人がいたんじゃないかと思わせる何かがあります。
1973冊目(今年278冊目)
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